闇営業問題と反社会的勢力とのつながりが報じられた雨上がり決死隊・宮迫博之、ロンドンブーツ1号2号・田村亮が7月20日に記者会見を開き、それを受けて、ダウンタウン・松本人志、極楽とんぼ・加藤浩次といった「吉本の兄さんたち」が吉本興業の体制を批判。7月22日には岡本昭彦社長が会見を開き、一連の騒動について謝罪、2人への処分撤回などを発表するに至った。
当記事では、スーツ着こなし指南本『できる男になりたいなら、鏡を見ることから始めなさい。』(CCCメディアハウス)の著者という立場から、この2つの謝罪会見を読み解いていきたい。
岡本社長が連発した「えっと~」に要注意
宮迫と亮の会見も、それを受けたかたちの岡本社長の会見も、おおむね服装に目立つ問題はなかった。そして、どちらの会見も椅子での着席スタイルであり、これもいい選択だ。
過去にもさまざまな謝罪会見に触れてきたが、立ったままで体がふらふらと揺れているケースもあり、ユーチューバーの謝罪動画では普段の配信スタイルを適用してしまい「スーツ姿で絨毯の上にちょこんと正座している」というケースすらあった。謝罪時に余計なノイズは不要であり、長机を用意し、椅子に着席するスタイルが無難だろう。
次に身のこなしの所作を見てみると、やはり舞台でもまれた宮迫と亮はうまい。しっかり前を見据えるなど、簡単そうに見えて一般人がいきなりやろうとしても難しいことが自然にできていた。2人にとっては皮肉だろうが、その落ち着いた様子に吉本の伝統の力を感じてしまったほどだ。
プロの芸人と比較するのは分が悪いが、岡本社長はどうだったか。冒頭はずっと目を伏せ気味で原稿を読んでいたが、この「読む」は謝罪会見ではやってはいけない。読むくらいなら、報道各社にファックスで送ったほうがいいだろう。ただし、個別応答になると岡本社長も顔を上げていた。
また、岡本社長は「えっと~」が口癖のようで、会見でもちょくちょく出ていた。謝罪会見に限らずプレゼンなどでもそうだが、特に言葉を発するときの癖は、本人はまったく気にならないが周りは気になってしまうものだ。
岡本社長に限らず、「えっと~」や「え~」が出てしまう人はとても多いので気をつけたい。また、「要するに」と言いながら、その後がまったく要点になっていないビジネスパーソンを一度は見たことがあるだろう。
さらに、岡本社長は会見上で、吉本の所属タレントに対し「引退はさせないよ」「また報告するね」という言い方で伝えていたと説明したが、実際はこういう口調ではなかったはずだ。本来の関西弁ではキツく聞こえてしまうため、全国に放送されることを考慮して標準語に変換したのだと推測するが、なぜか関西の人が語尾を標準語に変えようとすると、「よ」や「ね」を必要以上につけてしまい、気取っていたり子どもに話すような口調になったりしてしまうことがある。しかし、これも失点というほどではないだろう(無理せず関西弁で話したほうがよかったと思うが)。
なお、岡本社長の会見では、前提となる進捗状況は弁護士に説明させたり、時系列を説明する資料は事前に配布したり、質疑応答にはほかの役員も同席させたりしており、これらの対応は良かったと思う。
2つの会見の決定的に“まずい点”とは
服装、所作、話し方とも大きな問題はなかった2つの謝罪会見だが、ずば抜けてまずい点がある。「長すぎる」のだ。
宮迫と亮の会見は約2時間半、岡本社長の会見は約5時間半に及んだ。短すぎても不誠実であり、事の性質上「時間が足りない」「質疑応答が十分でない」といった批判が出ることも考えられるため、仕方なかったのかもしれないが、本来であれば、せめて1時間程度に収めたい。特に岡本社長は、不利な立場ということもあるが、話が回りくどく、長すぎた。うんざりさせてうやむやにする牛歩戦術なのかと思ってしまった。
一方、宮迫と亮の会見は無駄のないしゃべりだったが、岡本社長の「テープは回してないだろうな(会話を録音してないだろうな、の趣旨)」という発言を明かしたのは、やりすぎだったように思う。
これは2人とって心が折れる発言であり、公表してやる、となる気持ちは十分にわかる。しかし、関係がこじれにこじれ、あんな奴に逃げ道なんて残してやりたくない、と思うときほど、その逃げ道がないと自分の首も絞めてしまうことになりかねない。そもそも、今回は両サイドがこじれにこじれて、会見をする前に最悪の形で関係が終わってしまった、ということが周知された会見でもあった。しかし、その最悪の事態を避けるために動くことが重要なのだとあらためて感じる。最悪の事態になってからでは遅いが、それを避けきれなかったのが今回のケースだ。
そして、宮迫と亮にしろ、岡本社長にしろ、2人をかばう「吉本の兄さんたち」にしろ、その全員がおそらく大切にしているであろう吉本の「ファミリー感」は、外野から見たら“引く”要因でもある。今のご時世、ファミリーというだけで乗り越えていけるほど甘くない。それを忘れ、「家族の義」のために熱くなり、時に涙するのは、何より冷静でなくてはいけない「人を笑わせる」ことを命題にしている企業において、相当まずい。
実現が難しいのはわかるが、松本人志が提案していた「岡本社長と宮迫の乳首相撲で解決」だったらどんなに良かっただろうと思う。泥沼の会見(しかも、まだ尾を引きそうだ)よりは乳首相撲を見て笑いたかった。今の時代、それに対してあれこれ言う人がいるのもわかるが、だからこそやってほしかった。
最後に、西の女帝・上沼恵美子が、この騒動に関して冷ややかな意見を言いつつも、最後にはきっちりオチをつけていて見事だったことを加えておきたい。
(文=石徹白未亜/ライター)
『できる男になりたいなら、鏡を見ることから始めなさい。 会話術を磨く前に知っておきたい、ビジネスマンのスーツ術』 「使えそうにないな」という烙印をおされるのも、「なんだかできそうな奴だ」と好印象を与えられるのも、すべてはスーツ次第!