シンクランチ、なぜ起業から1年4カ月で株式売却に成功?
塩野 若さプレミアムはデカすぎますからね。今回は『リアルスタートアップ』で書いたことがリアルになってよかったです。2人の運のおかげで。
福山 運を引き寄せる力は、そういう無知から始まると思いますよ。
●“したたか”な周囲の使い方
上村 最初はサービス開始から突き進んでいって、少し時間がかかってふと冷静になって。今考えると、当時の「事業計画」は本当に弱かったなと恐ろしく思います。
塩野 いや、でも私が最近付き合ってきた起業家の中では、圧倒的にちゃんと計画していましたよ。すごい褒め言葉で言うと、一番“したたか”だった。(インキュベーションプログラムの)KDDI ∞ Laboに参加したチームでは、本当にメンター(KDDI社員)やアドバイザーなんかを使い倒したチームでしたよ。
福山 我々はKDDI ∞ Laboに参加した当初はまだ法人化もしてなかったので、右も左もわからなくて、頼れる人にはとことん頼ろうというのがありました。ファイナンス後も、株主のKDDIやNVCC(日本ベンチャーキャピタル株式会社)に助けてもらいましたし。
塩野 最近はリーンスタートアップの手法や、エンジニアは事業計画つくっているヒマがあったらコード書け! みたいなことも言われますが、どう思いますか?
上村 あれはアメリカだから成り立つ部分もあると思っていて、モノをつくって目立てばグーグルなんかに買ってもらえる。だからモノがないと始まらない。今回、結果として僕らはそのパターンでうまくいったというのはありますが、あまりお勧めはしません。
福山 まあ、起業するまではエンジニアがプロダクトフォーカスなのはよいと思います。なんにもサービスがないのに、理論上のKPI(経営指標)をExcelでこねくり回しても、だいたいが思い出づくりで終わることが多いでしょう。モデル次第だとは思いますが。
上村 今回、僕らがやってて一番苦しかったのが、このサービスはコンセプトが新しいから注目を集めたわけですが、新しいがゆえに、それが何業界に当たるのかわからなかったところです。ビジネスの定義っていうのはやっぱり大事。それでもなんとか突き進めたのは本当に運が良かった。
福山 運が良いと信じているというか。
上村 起業したばっかりの時って、何やっていいのか本当にわからないじゃないですか? 誰を信じていいかもわからない。そういう意味でKDDI ∞ Laboに入ってKDDI社員やIGPIの人たちからアドバイスをもらえたのも、本当に運が良かった。
塩野 20代の起業家たちは、誰を信じてよいかわからない状況になっている一方で、さっき向こうのセミナーで聞いたことをこっちで言う、みたいな部分があると思いますが、いかがですか?
上村 僕らは根本的にはそんなに人を信じないというか、すぐに「あの人、すごい!」とはならないんです。基本的にはすごく冷静なので。ただ起業したばかりの時はわからないことが多すぎるので、人を見極めてアドバイスを求めるという方針は一貫していました。
塩野 起業してから、メディアへの露出は多かったですよね?
上村 こんな僕たちですけど、キーとなるような記者やメディアの人はすごく大切にしていますし、ちょうど1年前くらいにはメディアの人たちを集めて新年会とかもやっていました。
塩野 なるほど。グーグル辞めて起業して、最初にちょっと不安になったのはいつですか?
福山 それはもう、自分の生活用の貯金が減ってきた時です。個人の預金がなくなってきた時は「やべっ」って思いましたね。自分だけだったら毎日カップラーメン食えばいいんですけど、やっぱり家族がいると落とせない部分もあるんで。
上村 僕は独身なんで余裕でしたけど。福山のところはあと2人いるんで、大変だったのかなと思いましたけど。あと家のローンとか。
塩野 家のローンを抱えて起業するのはすごいですね。
福山 あと、前職の給与で計算された国民健康保険と住民税のダブルパンチがドーンと来た時には、泣きそうになりました。冷静に考えれば、起業の時にそもそもそのリスクはあって、でもそれを全然恐怖に感じなかったのは、ランナーズハイというか……。起業前の昨年5月にプレでサービス出して、ガーッと伸びて「いける!」と思って、ハイになってたので、リスクを現実的に感じなくなってしまったんですよね。運も良かったですし。
●チャンスを呼び込む “運の良さ”
塩野 先ほどから「運が良い」という言葉をよく言われますが、昔からそう思っていたのですか?
上村 いや、もともとは2人ともそんなポジティブじゃなくて。
福山 ネクラです。でも、運は良いですよ(笑)。念のためお話ししておくと、僕らが言っている「運が良い」というのは、棚ボタ的な意味ではなく、「チャンスを呼び込む確率を上げる判断を常にしてきた」という意味です。