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村澤典知「時事奔流 経営とマーケティングのこれから」

なぜ商品少ない&売らないお店が成功?多いと売れない?蔦屋家電の逆張り戦略

文=村澤典知/インテグレート執行役員、itgコンサルティング 執行役員

 商品の販売はECショップだけで行われている。ワシントンD.C.にあるボノボの店舗は、ショーウィンドウ機能に特化しており、商品を見て試着することはできるが、一切購入することはできない。デザインとサイズを決めたらECショップで買ってください、という極端なコンセプトでつくられている。しかも、この店舗は十分なフィッティングのアドバイスができるよう、完全予約制の形式をとっている。

数多くの実験からも裏付けられる、モノを減らす戦略

 こういったモノを減らす戦略にメリットがあることは、すでにさまざまな実験を通してある程度証明されている。たとえば、『選択の科学』(文藝春秋)の著者として有名な米コロンビア大学のシーナ・アイエンガー教授が、スーパーマーケットでジャムの試食とセールスの関係を調査したものがそれだ。

 同じお店で24種類の試供品提示と6種類の試供品提示をしてみたところ、想像以上に結果に大きな差が生まれた。圧倒的に注目を集めたのは、やはり選択肢の多い24種類の試供品テスト。しかし、実際の売上に結びついたのは6種類の試供品テストだったそうだ。6種類のテストでは30%の人が実際に商品を購入したが、24種類のテストではそのわずか10分の1の3%しか購入には結びつかなかった。

 このことは、選択肢が多すぎると意思決定に迷ってしまい、最終的に買うことをやめる人が増えることを示している。

 実はこの考えは、「商品」を「情報」に置き換えた場合、インターネットでの情報収集の世界にも当てはまる。今やネット上では検索ひとつでさまざまなニュースサイトや企業の自社サイト、個人ブログ、SNSなどからあらゆる情報を入手することができる。その反面、情報が多すぎてどのサイトのどの情報を選んでよいかが難しくなっているなかで、その人の興味や関心にあった限られた情報をセレクトしてくれる「キュレーション・メディア」は救世主のような存在であり、だからこそ短期間で、国内だけでも数千万人以上のユーザーの獲得に成功したといえる。

モノを置かない先の店舗の姿

 これから先、蔦屋家電やボノボのように、あえて店頭の商品を減らす店舗は増えていく可能性がある。ただし、気をつけるべきことは、単にモノを減らすことではない。まずは、「ライフスタイルを提案する場にする」「フィッティングで安心して自分に合ったものを選べる場になる」など、実店舗の役割を明確にした上で、店舗に何を残し、何を捨てるべきかを判断するとともに、カフェなどのサービス拡大や、コンシェルジュを増やすなど、どこで店頭の魅力を高めていくかが重要になる。
(文=村澤典知/インテグレート執行役員、itgコンサルティング 執行役員)

村澤典知

村澤典知

インテグレート執行役員、itgコンサルティング執行役員。一橋大学経済学部卒。トヨタ自動車のグローバル調達本部では、調達コスト削減の推進・実行を中心に、新興国市場での調達基盤の構築、大手サプライヤの収益改善の支援に従事。博報堂コンサルティングでは、消費財・教育・通販・ハイテク・インフラなどのクライアントを担当し、全社戦略、中長期戦略、マーケティング改革、新規事業開発、新商品開発の導入等のプロジェクトに従事。A.T.カーニーでは、消費財・外食・自動車・総合商社・不動産・製薬業界などの日本を代表する企業のグローバル成長戦略、中期経営計画、マーケティング改革(特にデジタル領域)、M&A、組織デザイン、コスト構造改革等のプロジェクトに従事。2014年より現職。大手メーカーや小売、メディア企業に対し、データ利活用による成長戦略やオムニチャネル化、新規事業開発に関する戦略策定から実行までの支援を実施。


株式会社インテグレート

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