日本オラクルが強化する「次世代クラウド」を認知症対策に活用しているのが、西日本電信電話(NTT西日本)だ。スタートアップ企業のジョージ・アンド・ショーンと共同で認知症対策に取り組んでいるNTT西日本は、複数の自治体や施設と連携し、共同実証を計画している。
NTT西日本デジタル改革推進本部技術革新部R&Dセンタ開発推進担当部長の槇林康雄氏は、「認知症手前の時期である軽度認知障害(MCI)の検知エンジンで認知症の前段階から策を打ち、介護の負担を減らしたい」と語る。
日本オラクルクラウド事業戦略統括デジタルトランスフォーメーション推進室シニアマネージャー<新事業企画担当>であり、ジョージ・アンド・ショーン共同創業者/代表でもある井上憲氏も、「Oracle Cloudの優位性を生かして、今後もNTT西日本と共同で社会課題の解決に務めたい」と語った。その槇林氏と井上氏に、認知症対策の取り組みについて話を聞いた。
認知症対策の2つのカギ
――まず、NTT西日本の取り組みについて教えてください。
槇林康雄氏(以下、槇林) NTT西日本ではICTを活用した社会課題の解決に注力しています。特に西日本では、島嶼部も含めて、住民の高齢化や企業の事業継続などの問題も社会課題として浮上してきています。そのため、NTT西日本は地域を活性化することで、地域のビタミンのような役割を果たしていきたいと考えています。なかでも、力を入れているのが認知症対策です。
――超高齢社会の到来に伴い、認知症の高齢者も増えています。
槇林 日本は先進国の中で認知症の有病率がもっとも高いといわれています。認知症になるということは、本人はもちろん、ご家族にとっても大変なことです。40~50代の介護離職も問題になっており、働き盛りの世代がいなくなるのは大きな社会損失となります。そこで、ジョージ・アンド・ショーンと共同で開発を進めているMCIの検知エンジンを活用することにより、認知症になる手前の段階で発見し、認知症へと進行してしまう割合を減らすことで、介護の負担を軽減するというのが狙いです。日本での実績をもとに、将来的には同様の課題を抱える海外での展開も見据えています。
認知症対策には、2つのアプローチが重要だと考えています。サービス開発の推進と新技術の活用です。サービス開発については、「パーソンセンタード」という考え方に基づいて行っています。「パーソンセンタード」とは、認知症を持つ人を1人の人として尊重し、その人の立場に立って考え、ケアを行おうとする「パーソンセンタードケア」という実践の中で培われた人間観のことであり、NTT西日本では、この考え方をサービスの開発や改善に生かそうとチャレンジしています。
認知症対策においては、生理学だけでなく、社会とのつながりや認知症患者の感情などの側面にフォーカスして考える必要があります。たとえ認知症になったとしても、社会とつながり合い、誰もがその人らしい暮らしを続けられることが理想であり、そういった社会の実現に向けたサービス設計を地域のみなさまとともに行っていきたいと考えています。
――「新技術の活用」についてはいかがでしょうか。
槇林 厚生労働省の「認知症施策推進大綱」には、認知症手前の段階であるMCIを検知することが認知症の予防につながるという内容があります。この予防とは、進行を遅らせることも含まれます。対象者の生活情報をAIで分析し、早期にMCIを検知することができれば、認知症予防に寄与することができるという期待があります。これらの一連の取り組みについて、ジョージ・アンド・ショーンと連携し、今はソリューションの共同開発に取り組んでいます。