日本の恥さらし・東京五輪組織委 能力・資質・熱意のなさが、デザイン問題連発の元凶
組織委のマーケティング局長と、エンブレム選考メンバーでもあるクリエイティブ・ディレクターは共に大手広告代理店、電通からの出向です。広告代理店に「おんぶにだっこ」というのも、知恵もセンスもありません。
マーケティング局長は佐野氏とともに記者会見に臨み、「先方は商標登録していないので問題ない。こちらは7月24日のエンブレム公開と同時に、商標を確保している」と説明していましたが、ベルギーのデザイナーからのクレームはデザインの盗用に対して、つまり著作権問題なので、筋違いの見解でした。つまり何が問題なのかが、わかっていなかったことになります。この時も森会長が「絶対自信がある」と言い切っていましたが、デザインの修正に関して、ご自身も関与されていたことを示唆した格好になりました。
マスコミがネットを追いかけた
今回の騒動の特徴は、絶えずネット世論がリードしてきたことです。もちろんネットの性格上、行きすぎた個人攻撃もありましたが、それは佐野氏側が強弁したことで、さらに火に油を注ぐ事態を招いてしまいました。テレビの報道・情報番組などは、まるで井戸端会議か居酒屋談義にすぎない程度のコメントが目立っていたことと対照的で、マスコミがネットの後を追いかける展開が続きました。
そして、ネット検索を駆使すれば、よくもこれだけ見つけてこられるものだと感心するほど、類似作品を発見する能力の凄さを見せてくれました。
サントリーのトートバッグのデザインの盗用では、トートバッグで使われたフランスパンの画像が、第三者のブログで使われた写真から無断使用したものだと見つけ出し、エンブレム展開案の羽田空港ロビーの写真までもブログからの無断使用だと特定したのですから驚きです。
ネットでこれだけ類似作品が見つかると怖くてもうデザインできないという声が、デザイナーのなかからも聞こえてきます。企業やブランドのロゴタイプ、シンボルデザイン開発に携わった経験のある人なら痛いほどわかることですが、あとになって類似したデザインがある事実が発覚するほど怖いことはありません。対処も困難になります。
デザインを考えてすぐさまチェックできれば、類似作品のある無駄な案を早く捨てることができます。類似デザインの存在が容易に発見できれば、より新しい発想を探すことになり、結果としてこれまでにないデザインも生まれてきます。それゆえ、知的財産が競争を大きく左右する時代には、類似作品をチェックする検索の速度や正確さ、特許などの審査の速度や品質、処理能力が極めて重要です。
今回の騒動の教訓は、「デザイナーの資質や能力を問う前に、それを選ぶ組織の能力を問え」ということに尽きます。残念だったのは、日本がタイムマシンで時代を遡ったかのように、デザイン立国どころか、デザイン後進国、まるで途上国のように著作権に無頓着な体質に後退し始めていることがわかった点です。こういった退潮には、なんとしても歯止めをかければいけないと心から願うばかりです。
(文=大西宏/ビジネスラボ代表取締役)