利益の推移はもっと悲惨だ。営業利益は16億円で、同98.5%減となった。前年同期に1091億円あった利益を、西川経営によってすべて失ってしまったということだ。当期利益も同94.5%減と悲惨なものだった。
9月9日に日産は、「ゴーン被告によって不当に支出された金額は総額約350億円。これに対して賠償の訴訟を起こす」と、発表した。この数字を皮肉に読むと、次に解釈できる。
「ゴーン被告に350億円持っていかれても、彼がそのまま経営を続けていれば1000億円強という利益が19年度第1四半期にあったかもしれない」
西川氏の経営によって日産が失った利益の規模は、これほどにも大きいのだ。「経営者は結果がすべて」という言葉が正しいとすれば、西川経営の通信簿は赤点だけが目立つ。
人員削減をして自分は……
ゴーン氏が去り、西川氏が真に総帥権を持つようになってからのこの1年、日本を代表してきた名門企業に、大きな良いニュースは聞こえてこなかった。売上は2桁以上の減収で、車種別の売上順位は下がるばかりで、話題をさらった新車の発表も記憶にない。新技術の開発や新しい製造拠点の開設、新ビジネスモデルの話題もあっただろうか。
日産が7月、23年3月期までに日産グループ全従業員の1割に当たる1万2500人もの従業員を削減すると発表。その一方、「社長だけ不正に4700万円過分に報酬をもらっていた」ということだ。
日産のステークホルダーである株主、社外取締役、社員すべてが“アンチ西川”となり、西川氏は四面楚歌に陥っていた。そんな西川氏に、経営者としての資質があったのだろうか。
この疑問に答えるためには、「トップ経営者と側近経営者」という概念を持ち込むとよいだろう。西川氏はゴーン氏というカリスマ経営者の下で、志賀俊之氏(17年まで副会長)に続いて「日本人側近のNo.1」となった。ゴーン氏が日産に着任した1999年の翌年、欧州日産から帰国した時はまだ購買企画部の部長という任にあった。その後、ルノーとの協業を推進するポジションをこなしたことでゴーン氏の目に留まり、とんとん拍子で経営の階層を上り、13年にCCO、17年にCEOに就任した。
西川氏が日産のCCO、CEOとなった後にも、実質的な最高トップとしてはゴーン氏が君臨していたわけで、西川氏が重用されたのはひとえにゴーン氏を補佐する幹部経営者、あるいは側近経営者としての要素だったと私は見ている。
当然、トップとNo.2ではその責任もプレッシャーも大きく異なる。ゴーン氏が逮捕により日産の経営現場から退場してから、西川氏の経営実績として報道されたのは、日産の資本政策や取締役人事をめぐるルノーとの交渉だった印象が強い。
側近経営者というタイプは、組織内での調整や組織内交渉に長じているのではないか。西川氏も自分に興味があること、つまりパワーポリティクス的なルノーとの交渉ごとに傾注するあまり、ビジネスの伸長や新技術の開発、社員のモチベーション向上などに力が入らなかったのではないか。1年間の業績と日産のステークホルダーの反応を見ると、トップの器としての西川氏の鼎の軽重が今回問われ、その放逐は致し方のないことだったのだろうと思ってしまう。
次期社長は真のリーダーシップを
西川氏の辞任を受けて、日産では指名委員会が後任の選定に入っているという。10月には決定する意向で、すでに100名程度のロング・リストから10名程度のショート・リストに絞り込み、候補者のなかには日産の関係者も含まれるという。どんな後継経営者が登場するのか見当もつかないし、大いに興味がある。当然ながら、ゴーン氏や西川氏を反面教師として選考していることだろう。
トップ経営者としてのリーダーシップがある人なら、日本人に限る必要はない。ルノー側から来てもいいではないか。現にゴーン氏も当初は立派に再生経営者の責を果たし、カリスマ経営者として名声をほしいままにしていた。
シャープが経営問題により台湾・鴻海精密工業(鴻海)に実質吸収され、戴正呉氏が会長兼社長として送り込まれてきたとき、いったいどうなることかと日本人は皆心配していたが、戴氏は劇的にシャープを再生させてしまった。
日産は現在、不調に沈んでいる状況だ。こんな状況の会社をV字再生させるには、従来のやり方を繰り返す「経験再生の方策」をとりがちな日本人よりも、ゴーン氏や戴氏のように、しがらみのない新しい経営手法を導入できる外国人のほうがいいかもしれない。
日産の指名委員会が素晴らしいプロ経営者を招聘することを大いに期待したい。
(文=山田修/ビジネス評論家、経営コンサルタント)
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