政府は大手電力10社がそれぞれ保有・運営している送配電設備の仕様の統一に着手した。災害発生時に、他社がストックしている資材(部材)を使えるようにするのが狙いだ。仕様を統一すれば大量調達が可能になり、コストは下がる。
しかし、電力各社が原子力ばかりに目を向けて、電力事業の根幹ともいえる送電設備の投資を抑制するのであれば、まさに本末転倒である。経営の効率化と災害対策の強化を同時に進めることが、電力会社のトップに求められる経営力ではないのか。「経済合理性」という言葉の魔力に酔って思考停止に陥っているとしたら、それは悲劇ではなく、もはや喜劇だ。
東電の子会社、東京電力パワーグリッドの塩川和幸技監は9月12日の記者会見で長期化する停電について「被害想定の見通しが甘く、反省している」と陳謝した。同社は大規模停電が起きた翌日の9月10日時点で、千葉県内で最大64万軒だった停電軒数を11日未明までに12万軒に縮小し、11日中に全面復旧するとの目標を掲げた。しかし、日を経るとともに全面復旧の見通しは後にズレ込み、とうとう9月27日までかかるとした。東電は9月18日現在、9月27日に全面復旧できるかどうかについては、明言していない。
千葉市の熊谷俊人市長は「楽観的な見通しを発表することは被害者のためにならない。最悪の事態を想定して、すべての関係者が準備できるよう情報発信してもらいたい」と苦言を呈した。
不思議に思うのは、東電の川村隆会長や小早川智明社長が出てきて、見通しの甘さについて反省の弁を、なぜ述べないのか。子会社の責任とばかり、知らん顔を決めこんでいて、いいのか。森田知事もそうだが、東電のトップも自覚が足りないように映る。
電力各社の送電施設の整備は1970年代に進んでおり、更新時期が迫っている。送電線の鉄塔は70年代に建てられたものがほとんどだといわれており、千葉県君津市の鉄塔は72年に完成したものだった。東電管内の鉄塔の平均使用年数は42年。電柱の地中化は台風対策として有効だが、電柱を地中化するのは1キロメートル当たり4~5億円かかるといわれる。
大規模被害が起こるたびに「100年に1度のこと」と釈明しつつ、責任逃れを始める。だが、小泉進次郎環境相が言ったように「天災は忘れたころではなく、毎年やってくる」ものだ。老朽化したインフラ対策は政府の責任である。同時に、東電だけではなく、関西電力、中部電力ほかの各電力会社の備えは十分なのかが問われている。
(文=編集部)