北朝鮮の音楽隊とも交流
一方、日本が誇る自衛隊音楽隊はどうでしょう。日本の自衛隊は「専守防衛」を旨としているので、音楽も攻撃に使われることはありません。また、世界的にも第一次世界大戦以降は空中戦が増え、音楽が実際の攻撃に使われることはなくなりましたが、任務に従事する隊員への激励のために、音楽は重要な役割を持っています。
自衛隊の行動は、任務と命令に基づいて実施されるそうです。このたびの千葉県の台風被害のような災害派遣は、知事等の要請により、自衛隊司令官が命令を発することはよく知られている通りです。音楽隊も同様に命令と任務により、たとえば、東北の被災地に出かけ、慰問演奏をして被災者の方々を励ましたり、海外においてもPKO活動の一環として、まだまだ治安が不安定なイラクで演奏をしてきました。
もちろん、音楽隊員も自衛官なので、射撃や体力検定の訓練を受けていますが、大変な任務です。任務といえども、自衛隊員が紛争地や被災地で必死に任務に当たっているのと同様に、音楽隊も音楽の力で人々の心を救うために、懸命に演奏しているのです。
その自衛隊音楽隊の中で頂点として活躍しているのは、陸上自衛隊中央音楽隊です。彼らのプロフィールには、「日本を代表する吹奏楽団として歴史を積み重ねてきた」と書かれていますが、実際に国内外で評価が高く、2017年には世界的に有名な英国の「ロイヤル・エディンバラ・ミリタリー・タトゥー」に出演し、最優秀出演団体賞を受賞しました。全国にある陸上自衛隊音楽隊の隊員も、一定期間、朝霞駐屯地にあるこの陸上自衛隊中央音楽隊で教育を受けることになっています。現在、パプアニューギニアの軍楽隊育成事業も任されており、両国の友好にも貢献しています。
僕の友人の、ある自衛隊音楽隊の方から聞いたのですが、この8月に音楽隊はロシアの音楽祭に招待され、国家間ではまだ緊張感がある北朝鮮と同じステージで演奏し、音楽を通じて国同士の理解を深めることに貢献できたそうです。武器の代わりに楽器を持っている音楽隊は、お互いの国々の理解を深める大きな役割を持っているのです。ちなみに、この音楽隊は、先述したように各国元首が来日した際の歓迎式典での両国の国歌演奏も任されています。自国は当然のこと、相手国の国歌の演奏では間違いが許されないので、とても神経を使うそうです。
陸上自衛隊中央音楽隊は、コンサートホールでの定期演奏会も開催しており、プロの指揮者を客演指揮者として招聘し、チャイコフスキーや現代作曲家の作品などを高いレベルで演奏し、全席無料で一般の方々に開放しています。抽選をしなくてはいけないくらい大人気だそうで、僕も再来年に指揮をすることになっています。ぜひ、全国にある自衛隊音楽隊の活動に注目してみてください。
(文=篠崎靖男/指揮者)