戦略の有無が企業の命運を決めている
今年、印象に残ったビジネスシーンをいくつか想起してみよう。
ヤマダ電機の業績が急回復してきた。5月に大量閉店した効果だ。昨年暮れに私は、同社の出店戦略が限界に達していることを指摘していた。日本に1100もの店があり、多くの市では1世帯当たりの同社からの年間購入額が19万円にも上ると推定したのだ。私の記事が目に留まったとも伝えられるのだが、山田昇社長は果断に戦略の舵を切った。
総合スーパー(GMS)の時代が終わってしまっている。ダイエーはイオン傘下に入り、18年にはその商号もなくなる。イオンもGMSでは利益を出せず、実態はイオン・スーパーをキーテナントとして他のテナントを集めるショッピングセンター不動産の開発・運営事業者となっている。セブン&アイ・ホールディングス(HD)でもコンビニエンスストア事業の絶好調に対して、イトーヨーカ堂の業績はひどい。イトーヨーカ堂を売却して、セブンイレブンの世界展開の原資とすべきだと、以前、本連載で指摘した。
モスフードサービスが日本マクドナルドの絶不調に対して好調だ、ということはない。モスは1998年に国内1500店を達成して以来、ほとんど店数を伸ばしていない(伸びた300店は海外)。「不動」の業界2位だ。海外事業を展開している台湾の会社に経営を任せたほうがいい。
花王の海外進出への志不足は罪悪的だ。10年前、海外販売比率は米国プロクター・アンドギャンブル(P&G)と大差なかったが、この10年の間にP&Gは海外販売金額を6兆円も伸ばしている。「優良会社」花王は何をやっていたのか! P&Gジャパンに米国本社から社長が派遣されたと思ったら、日本本部をシンガポールに移してしまった。日本市場に対する同社の戦略はどうなるのだろう。
米サンダーバード国際経営大学院の後輩、玉塚元一氏がローソン社長に昨年就任したとき、ことほいだと同時に、私は会長となった新浪剛史氏のローソンからの転出を予言した。果たして、その後まもなく同氏のサントリーHD社長就任が発表された。同社の佐治信忠会長は10年にキリンとの統合が破談となったときから、新浪氏の獲得に動き、新浪氏は転出準備として玉塚氏をスカウトしたと私は見ている。
ゲーム王として君臨してきた任天堂がスマホゲームに参入しないのは典型的な「イノベーションのジレンマ」だ、と私が指摘したら、それに抗するかのようにディー・エヌ・エーとの提携が発表された。しかし、岩田聡社長が急逝されて、その戦略転換は貫徹されるのだろうか。成功した企業ほど抜きがたい「価値基準」に組み込まれているからである。