「清水氏はリーダーシップには欠けるところがあるが、人望のある人物で現場の社員やアルバイトから非常に好かれています。ブラック企業批判に嫌気して、会社を辞める人も多かったのが実情ですが、清水氏が社長に就いたことで、社員やアルバイトも『もう少しがんばってみよう』と考え直した人も多いはずです。ワタミへの逆風が吹く中で、清水氏の社長就任はベストの選択だったと思います」(ワタミ関係者)
しかしながら、2期連続赤字の後を受けて清水氏が社長に就いてからは、資金繰りが悪化し、新業態開発などカネのかかることは先送りされた。この時期、ワタミは水面下で証券会社などを通じ、居食屋「和民」の売却に動いたといわれる。それが思うように運ばず、買い手の多い介護事業の売却を進めたという。こうして今年10月、介護事業を210億円で売却すると発表、財務悪化に歯止めをかけた。そしてワタミは、このタイミングで反転攻勢に打って出るのだ。
創業者からのエール
今年9月、東京・新橋に新業態の居酒屋「ニッポンまぐろ漁業団」(94坪、176席)を開店した。サントリー酒類市場開発本部グルメ開発部と連携して、開発した。店内は漁港・波止場、漁師の憩いの酒場、漁具小屋、船長のお屋敷という4つのゾーンに分割、「まぐろ尽くし六点の食べ比べ」(2人前1790円)など、メニューの4割程度はマグロ料理だ。
第1号店の新橋店は好調だ。だが、「食材がまぐろで特殊なこともあり、多店舗展開は難しいだろう」(業界筋)といわれている。しかし、ワタミはまぐろ漁業団を経営不振の和民、坐・和民、わたみん家などを業態転換するために開発した。3~5年で30店舗程度まで展開する方針だという。
創業者で参議院議員の渡邉美樹氏は、SNSのフェイスブックを正式な情報発信ツールとしている。今年10月2日、ワタミは介護事業の株式を210億円で損保ジャパン日本興亜ホールディングスに譲渡する契約を結んだが、同日渡邉氏はフェイスブックに長文を書いた。ポイントを抜粋しよう。
「2年で200億の赤字の会社です。本気の再建です」
「『介護サービスの原則維持』、『社員・スタッフの雇用維持』を前提にした今回の経営譲渡は、大義の決断、涙の選択だと創業者の私も受け止めております」
ワタミは06年にアールの介護とワタミメディカルサービスを合併、ワタミの介護と社名変更した。以来、首都圏を中心に介護付き有料老人ホーム113カ所(15年9月末現在)を展開してきた。最も資産価値があると評価されていた介護事業の売却に追い込まれたのだから、まさに断腸の思いであったと思われる。渡邉氏はフェイスブックの記事をこう結んだ。
「ワタミ奇跡の大復活も今日が『はじまり』です」