そこで、内閣府のマクロ計量モデルの乗数をもとに経済成長率への影響を試算すれば、前回は駆け込み需要により2013年度の成長率が+0.7%ポイント引き上げられた一方で、2014年度の経済成長率は▲1.5%ポイントも押し下げられたと試算される。同様に今回の影響を試算すると、キャッシュレス決済のポイント還元などの影響により、駆け込み需要は+0.2%ポイント経済成長率を押し上げるにとどまり、消費税率を引き上げてから1年の経済成長率も▲0.3%ポイントにとどまるが、臨時特別予算措置が終わる2年目には経済成長率をさらに▲0.4%ポイント程度押し下げると試算される。従って、外部環境にもよるが、消費税率の引き上げは、長期間にわたって景気腰折れのリスクを高めることになろう。
なお、軽減税率導入では、IT関連業界への直接的な恩恵もあるが、事業所などは会計システムの変更を余儀なくされるため、その分の一時的な効果や費用負担も考慮しなければならない。また、本試算では内閣府のマクロ計量モデルの乗数を用いているため、子育て世帯還付の効果が平均的な所得減税の効果となっている。しかし、相対的に子育て世帯の限界消費性向が平均値より高くなれば、それだけGDP押し上げ効果も変わる可能性があることには注意が必要だろう。
今後の課題
今後の消費税率引き上げにおける課題としては、まずデフレ脱却への影響が指摘できる。理由としては、すでに内閣府が試算するGDPギャップはプラスだが、ESPフォーキャスト調査に基づけば、フォーキャスターのコンセンサス通りに成長した場合は、2019年10月から消費税率を引き上げることで再度デフレギャップが生じてしまうためである。特に、2014年4月に消費税率を引き上げた際も、引き上げ直前にデフレギャップが一時的に解消したものの、消費税率引き上げ直後に安倍政権発足以前の水準までデフレギャップが逆戻りしてしまった経緯がある。
また、前回の消費税率引き上げの影響を勘案すると、安定的な財源が確保されることにより税収増が期待できる一方で、家計の恒常的な購買力低下で内需への影響が大きいという声もある。従って、さらなる家計向けの支援策等、ある程度の規模の予算を配分した対策は不可欠であると思われる。一方で、将来のさらなる消費税率引き上げ幅を抑制する意味でも、社会保障の効率化も必要な策といえるだろう。
将来的にも、さらなる消費増税を実施する場合に生活必需性の高いものへの軽減税率の引き下げを併用すれば、消費増税も実施しやすくなるが、逆に負担軽減策をおろそかにして国民の不満を高めてしまうとその後の消費増税は政治的に困難になるだろう。将来の消費税率引き上げを確実なものにするという意味でも、家計負担軽減策は不可決であると考えられる。
(文=永濱利廣/第一生命経済研究所経済調査部首席エコノミスト)