10月下旬、ソニーは長崎工場の生産能力を引き上げる計画を発表した。それによって同社は、CMOS(イメージセンサー)の生産体制を強化し、画像処理センサー需要の高まりに対応する目算という。ソニーが、自社の強みである“モノづくり”の重要性を明確に認識し、その実力を高めようとしているということだ。かつて日本のモノづくりの象徴であったソニーが、高いシェアを誇るCMOSの生産力を高めようとしていることは、日本経済にとっても心強い動きだ。
今後、注目したいのは、世界経済の先行きの不透明感が徐々に高まる中で、同社がどのように業績の拡大を実現するかだ。ソニーが技術力などの向上を通して新しいモノを世界に送り出し、それを通して人々に新しい価値観や生き方を提示し、共感を得られるのであれば、さらなる成長は可能だろう。ソニーが先端分野においてテクノロジーを生み出す力を高め、それを用いたヒット商品を創出していくことを期待したい。
新しいモノを生み出してきたソニーの力
ソニーは、新しい発想を基に技術力を高め、それを用いた新しいモノを生み出し、成長してきた。かつて、ソニーとは新しいテクノロジーを生み出してヒット商品を実現し、人々の常識を覆してきた企業だった。
同社が生み出した「ウォークマン」はその代表例だ。その登場によって、世界の人々は、より気軽に、より良い音質で音楽を楽しむことができるようになった。ウォークマンを生み出したソニーは、アップルの創業者である故・スティーブ・ジョブズにも影響を与え、iPodなど、新しいモノの創造に少なからぬ影響を与えたともいわれている。
しかし、1990年代半ば以降、ソニーの経営は従来とは異なる考えを重視し始めた。それがコングロマリットの推進である。コングロマリットとは、業種が異なる事業を複数組み合わせた複合事業体のことをいう。これを進めた企業の代表例に、米ゼネラル・エレクトリック(GE)がある。ソニーは本業であったエレクトロニクスに加え、保険や銀行の金融をはじめとする複数の事業を傘下に収め、GEのように多角化経営を進めた。
ソニーのコングロマリット経営に関しては、数多くの指摘がなされている。論点を絞ると、コングロマリット経営の推進と引き換えに、ソニーは自社の強みを見失ってしまったと考える。