「レンジエクステンダーEV」
じつはマツダには、EVの航続距離を伸ばすためのとっておきの“隠し玉”がある。1967年に世界で初めて量産に成功したロータリーエンジンだ。「MX‐30」がバッテリーだけで駆動するのに対して、レンジエクステンダー(航続距離を延長する装置)として、ロータリーエンジンを搭載した「レンジエクステンダーEV」は、バッテリーの電力残量が一定水準を下回ると、ロータリーエンジンがガソリンを使って発電し、バッテリーを充電することで航続距離を伸ばす。バッテリーだけのEVに比べて航続距離は、約2倍になる。
「レンジエクステンダー」の特徴は、小型かつ軽量であることだ。マツダは当初、ピュアな「バッテリーEV」である「MX‐30」と同時期にあたる20年に、「レンジエクステンダーEV」を市場投入する計画だったが、発売時期が遅れている。
「CASE対応を含め、仕事の量的な難易度があり、リソースの最適配分という意味から遅らせました」と、工藤氏は説明する。「レンジエクステンダーEV」の開発の遅れは、次世代技術の開発競争の激化で新技術への多額の投資が必要になったためだ。
「レンジエクステンダーユニット」が実現すれば、マツダは地域特性に応じた電動化技術を展開できる。すなわち、クリーン電源(発電の際に発生するCO2量の少ない電源)の比率に応じて、投入する電動パワートレーンを使い分け、「Well-to-Wheel」でCO2排出量を減らせる。
ちなみに、クルマのCO2排出には、「Tank- to- Wheel」と「Well-to-Wheel」の2つ考え方がある。「Tank- to- Wheel」はクルマの燃料タンクからタイヤの駆動までに排出されるCO2の総量、「Well-to-Wheel」は油田からタイヤの駆動までに排出されるCO2の総量をいう。
多様な電動車を「一括企画」によって効率よく生産
副社長の藤原清志氏は、18年10月2日に開かれた技術説明会の席上、つぎのように、電動車「xEV」について説明した。
「レンジエクステンダーユニットをベースにして、ジェネレーターやバッテリー、燃料タンクの組み合わせを変えることで、プラグインハイブリッド、シリーズハイブリッド(走行にはモーターのみを用い、エンジンは発電用として用いるハイブリッド車)など、共通の車両パッケージ内で『マルチxEV』を提供することが可能になるんですね」
例えば、クリーン電源比率が高く、充電インフラが普及した地域には、ピュアなバッテリーEVやレンジエクステンダー付きEVを投入する。クリーン電源の比率が低く、充電インフラの普及が遅れている地域には、モーターで走り、電気は車載のエンジン発電機で供給するシリーズハイブリッドモデルを投入するといった具合だ。
マツダは、バッテリーEV、レンジエクステンダーEV、プラグインハイブリッド車、シリーズハイブリッド車といった多様な電動車を「一括企画」によって効率よくつくり、地域ニーズに沿った車種を展開する計画だ。工藤氏は、次のように述べる。
「MaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)がメインのクルマは、情報の高速処理が求められる。つまり、バッテリーがたくさん必要になってくる。そこで、レンジエクステンダーの供給を視野に入れているんですね」
「レンジエクステンダー」は、トヨタが発表した完全自動運転の次世代EV「e-Palette Concept(イー・パレット・コンセプト)」に搭載される。
そもそも、なぜEVの開発が進められるようになったのか。EVブームに乗る前に、いま一度、原点に立ち返って考える必要があるだろう。マツダは現在、ロータリーエンジンの技術のすべてを盛り込み、「レンジエクステンダーEV」の開発に全力をあげている。
(文=片山修/経済ジャーナリスト、経営評論家)