オンワード、600店閉鎖・赤字転落の英断…アパレル業界の旧態依然たる経営と決別
2.廣内会長退任と保元社長の決断
1997年から22年間も代表取締役の座につき、19年4月2日にオープンした「カシヤマ ダイカンヤマ」のプロジェクトリーダーも精力的に務めていた廣内武会長は、19年5月23日付で退任した。良い意味での世代交代であり、同社を取り巻く環境も変わるだろう。
今回の大英断を発表した保元道宣社長は、2006年に入社している。東大法学部から官僚となり、その後にNTTのインターネット販売会社に転職。業界が弱いECについての知見は素晴らしく、2020年2月期上半期も「オンワード・クローゼット」のEC売上高は153億円(前年同期比34%増)、通年では350億円を予想する。21年度計画で500億円、将来的には1000憶円を目指している。従来から「体育会系体質」で有名な同社、そしてファッション業界にあっては異質な存在である。
オンワードHD は20年2月期からの3カ年中期計画で、3つの成長戦略を掲げた。
(1)クリエーション・ファースト事業の展開
多様化するマーケットの中では、従来の売れ筋追及の短期納品ではなく、クリエーションが生み出す差別化商品でないといけない。米国での新店オープンに続き、10月19日に東京・青山に路面で初コンセプトストア「J・プレス&サンズアオヤマ」をオープンした。新ラインは若い新規顧客開拓を目指した試験的なMDである。カタログを見る限り「J・プレス」の本来の普遍性はまったく生かされておらず、モードに振れ過ぎ、従来の顧客には残念なラインであった。大きく戻ってきているアメリカントラッドのコア・ヴァリューを生かすべきではなかったかと疑問が残る。
(2)ファクトリー・トゥ・カスタマー事業の加速
17年からスタートした「カシヤマ・ザ・スマートテーラー」のオーダーメードスーツ事業は、店頭在庫が不要でロスがほとんどないビジネスモデルである。テレビCMをはじめ認知拡大に大掛かりなメディア作戦が展開され、女性専門店のオープンをはじめ強気な店舗展開が進められている。
また、生産部門でもメンズは大連(中国)、レディスも上海(中国)近郊で基盤は確立されている。それに加えて、四半世紀ぶりに国内の多品種小ロット、QR(クイックレスポンス)対応のために国内自社工場の稼働を開始した。元ゼネラルクロージングの株式100%を取得し、旧生産設備をベースに新工場に10億5000万円を投資し「カシヤマ・サガ」とした最新工場に生まれ変わり稼働している。