小売店が消費者に来店と購買を促すためには、魅力的な品揃えが不可欠となります。そのためには、店内の限られたスペースの中で、製品カテゴリーごとに適切な陳列スペースを割り当て、それぞれのカテゴリーにおいて利益の増加につながる最適な品揃えを決定しなければなりません。しかし、品揃えの構成要素は、食品を例にとると、ブランドだけでなく、フレーバー、特性、パッケージの形状、サイズの種類を含むように多元的なため、その決定は容易ではありません。
消費者行動研究ではこれまで、品揃えについてさまざまな研究を行ってきています。ここではそれらの一部を概観しながら、適切な品揃えとはどのようなものなのかについて、消費者の視点から考えてみたいと思います。
なお、品揃えは、小売店が扱う製品カテゴリーの集合(種類)として捉えることもありますが、消費者行動研究では特定の製品カテゴリー内でのバラエティとして捉えることが多いので、ここでも後者を対象としています。
豊富な品揃えにはデメリットも
品揃えは、以前は「豊富であることはよい」と考えられていました。しかし、近年の消費者研究は、豊富な品揃えのメリットだけでなく、デメリットも報告しています。
よく知られている実証研究は、アーインガーとレッパーが行った実験です【註1】。アメリカの高級食料品店で試食ブースを設け、ウィルキン&サンズのジャムを24種類(フレーバー)、あるいは6種類置き、立ち寄った買い物客に1ドル引きクーポンを渡し、購入する場合には売り場に行って商品を選び、レジで購入してもらうというものです(売り場にあるフレーバーは28種類)。
結果は、ブースに立ち寄った買い物客の比率は24種類のほうが多くなりましたが、その中で実際に購入した客の比率は6種類のほうが多くなりました。試食したフレーバー数に違いはありませんでした。豊富な品揃えは、買い物客を惹きつけることができますが、購買の動機づけを低めてしまうことが示されています。
アーインガーとレッパーは別の実験も行っています。ゴディバのチョコレートを6種類、あるいは30種類提示し、その中から選択した1つを食べてもらうというものです。その結果、30種類は選択プロセスの楽しさと難しさの両方を感じさせ、そして選択後の後悔を高くするのに対し、6種類は選択したチョコレートを食べた後の満足度を高くすることがわかりました。豊富な品揃えは、買い物客に選ぶ楽しさをもたらしますが、選択を難しく感じさせ、消費満足を下げるとともに後悔を残しやすいということになります。