買い物客が選択肢のない状況を嫌う「単一商品の選択回避」という現象がモンチョンによって実証されています【註5】。被験者にとって典型的なチョコ菓子(スニッカーズ)と馴染みのないチョコ菓子(セレナータ・デ・アモール)を対象とし、それぞれを1種類で提示した場合とそれらを合わせて2種類で提示した場合の商品選択率を調べる実験を行っています。
その結果、選択率はどちらの商品も2種類から選択したときのほうが2倍も高くなったことを明らかにしています。また、この現象が単一商品の拒否ではなく、ほかの選択肢を探そうとする欲求から生じていることも明らかにしています。
買い物客は、日々の買い物をできるだけ時間と労力をかけずに終えたいと思うことがあっても、一製品カテゴリー、一商品という「選択肢のない」売り場を望んでいるわけではないのです。そうした売り場は、買い物客に店から選択を強要されているように感じさせる可能性があります。
また、買い物という行為をつまらないものにしてしまう可能性もあります。そのような知覚が何度も生じ、そしてそれが複数の製品カテゴリーにわたって生じるようであれば、その店に対する買い物客の品揃え評価は悪化し、それは店舗ロイヤルティの低下につながっていくかもしれません。もちろん、製品カテゴリーによる違いはあるとは思いますが、選択の余地について検討してみる必要があるかもしれません。特に、大型スーパーは買い物客の品揃えへの期待が高くなるので、注意が必要です。
品揃えは、多すぎても少なすぎても買い物客に好まれないのです。
(文=白井美由里/慶應義塾大学商学部教授)
※参考文献
【註1】Iyengar, S. and M.R. Lepper (2000), “When Choice is Demotivating: Can One Desire Too Much of a Good Thing ?”, Journal of Personality and Social Psychology, Vol. 79, No. 6, pp. 995-1006.
【註2】Kahn, B. E., and B. Wansink (2004), “The Influence of Assortment Structure on Perceived Variety and Consumption Quantities,” Journal of Consumer Research, Vol. 30 (March), pp. 519-533.
【註3】Broniarczyk, S. M. (2008), “Product Assortment” in C.P. Haugtvedt, P. M. Herr, and F. R. Kardes (Eds.), Handbook of Consumer Psychology, (pp. 755-779), Laurence Erlbaum Associates.
【註4】Kahn, B. and L. McAlister (1997), Grocery Revolution: The New Focus on the Consumer, Addison-Wesley.
【註5】Monchon, D. (2013), “Single-Option Aversion,” Journal of Consumer Research, Vol. 40 (October), pp. 555-566.