それにもかかわらず、3位のEU(加盟28カ国で同10.4%)、6位の日本(同3.8%)はペナルティ付きの排出の削減義務を負うという偏った内容だったのである。しかも、基準となる年の関係で、日本はEUより過酷な削減を強いられ、排出権取引で外貨を吐き出さざるを得ない仕組みになっていた。この問題だらけの京都議定書に比べれば、パリ協定ははるかに実効性を期待できそうである。
無責任な政策議論
国内問題に目を向けてみよう。
日本は今回の合意に先駆けて、30年までに温暖化ガスの排出を13年比で26%減らす目標を明らかにした。パリ協定交渉で合意ができた以上、菅長官が言うように、その達成に向けて真摯に取り組むのは当然だろう。
マクロ経済面での成長持続には障害とはいえ、省エネ技術で比較優位にある分野で輸出を増やせば、外貨を稼げるだけでなく、世界の温暖化ガスの排出削減に貢献できる可能性もある。すでに存在する技術に加えてイノベーションを推進し、この分野の国際競争力を高めていくことも重要だ。
ただ、気がかりなのは、かねて温暖化ガスの排出削減に便乗する無責任な政策議論が氾濫していることだ。いつの時代も、官僚たちはそうした政策作りの達人である。
安倍政権下でも、すでに今回の合意に備えて布石を打っていたものがある。その代表例が、経済産業省が今年7月に決定した「長期エネルギー需給見通し」だ。それによると、30年度は年間で9808億kWh程度の電力が必要で、そのうち20~22%を原子力発電で賄う必要があるとしている。この試算に従うと、100万kWhの大型原発が53基から59基程度も必要になる。
だが、建設中の大間原発を含めて再稼働を目指している原発は国内に44基しかなく、このなかには活断層問題や40年という運転期限の壁が立ちはだかる原発が含まれている。そんななか、温暖化ガスの排出削減には残っている原発をすべて再稼働しても足りないという長期エネルギー需給見通しを盾に、政府は原発の再稼働を進めようとしているのだ。
歴史的な合意を悪用
そもそも年間9808億kWhの電力が必要になるという根拠は、あまりにもあやふやなのだ。経済産業省は、GDPが今後15年間にわたって年率1.7%の高成長を遂げることを前提に、節電などさまざまな対策で必要な電力を17%減らすことができるとして長期エネルギー需給見通しを算出したという。しかし、この成長率は、91年度から13年度のGDPの伸びが年率0.9%と、1%にすら満たなかった日本経済の実力を無視した高すぎる前提だ。