カサノバ社長自身が大胆で抜本的な舵取りをしないことの補完的な役割として、下平氏やラーソン氏を招きいれたとしたら、戦略的には悪手な人事だった。なぜなら、同じ成功体験で育ってきたエグゼクティブは、同じ手法しか繰り出さないからだ。海に投げ出されたときに泳げない者同士がしがみついているようなものとなる。
オペレーションの改善に力を発揮すると期待された下平副社長は、直前には有力FC法人の幹部として腕を振るっていた。しかし、企業がターンアラウンド(方針転換)を目指す場合、既存のネットワークやステークホルダーと強い関係があることは、逆の効果となってしまう。人間関係がまったくない、外部からのプロ経営者の招聘や、本部からの派遣経営者のほうが大鉈を振るえるものだ。
特に日本マクドナルドHDは原田泳幸前社長時代に店舗のFC化を進めてきた。私も昔とあるFCチェーンで本部側の幹部を務めたことがあるが、ザー(本部)とジー(FC)の利益は相反するのが現実だ。ザーにとって顧客であるジーに近い幹部職は、よいコミュニケーションを取れば取るほど、本部として戦略的な抜本策を取りにくくなることがある。
米国本社の新CEOは明快な戦略を描いた
米国本社では、近年の業績悪化を受けて3月にスティーブ・イースターブルック氏がCEO(最高経営責任者)に就任した。米国企業のCEOというのは、株式市場から絶えざる圧力を受けるので業績改善への意欲が強い。同氏も着任すると、ただちに「戦略上の優先事項を白紙にする、差し迫った必要性がある」と危機感を示した。
具体的には、世界で展開している市場を、地域ではなく市場としての成長特性で次の4つに分類し直した。
・米国(最大の市場)
・業績を牽引する市場(フランス、オーストラリア、イギリスなど)
・高成長が期待できる市場(中国、ロシア、韓国など)
・基礎的市場(日本、中東、中南米、インドなど)
日本が属する「基礎的市場」とは「その他の市場」ということで、戦略的優先順位が低い。
イースターブルック氏の経営手腕は、市場から評価されている。何より、米国での第3四半期(7-9月期)の売り上げが、四半期ベースでは1年ぶりに上向いた。世界ベースでも同期間で対前年比4.0%の伸張を果たした。日本マクドナルドHDの株放出のニュースを受けたこともあり、米本社の株価は118.80ドル(12月23日終値)と年初来高値で今年を終えそうだ。