「心が折れた」あのプロ経営者、なぜ突然退任?新社長欠席の異例会見、エールを送りたい!
次期社長の選考を開始していたことは、藤森氏には伝えられていなかったのではないか。それが指名委員会の性格だからだ。そして、「16年6月の株主総会をもっての降板」などを告知された藤森氏が、「そんなことなら早々に」と唐突な発表会を経て新年からの瀬戸氏の着任という道を選んだと私は見る。
道半ばで去るプロ経営者
会見で藤森氏は「コンフォタブル(快適)な状態になったら辞める。それがプロ経営者というもの。私はプロとしての信念とプライドで(退任を)決めた」と語ったが、それは真意ではないだろう。オーナーからの通告を受けた雇われ社長の心が折れてしまったのだ。こんな場合に心が折れるのも、プロ経営者の矜持として私には理解できる。「君に任せた、頼む、といっていたのにふざけるな!」と、藤森氏が思ったとしても驚かない。
藤森氏が潮田氏に請われてLIXILのCEOに就任したのは、11年8月のことだった。5社が合併してLIXILが誕生した4カ月後のことだ。外資出身の経営者が日本の大企業に招聘された。プロ経営者が登場した大型事例として私は大いに期待した。その組織にプロパーで存在している経営陣では成し遂げられない、新しく大きなことを実現してくれるのではないかと思ったのだ。
藤森氏の経営改革には一定の評価を与えられる。まずジャック・ウェルチ仕込みの米ゼネラル・エレクトリック(GE)流「事業の取捨選択」で重複した事業を「水回り」など4部門に再編した。旧来の経営からの脱皮ということでGEなどから人材を集め、今や事業会社LIXILの取締役10人のうち9人が外部からだ。
何よりの功績は、事業の海外展開を推し進めたことだろう。私は以前から、衛生陶器各社が本格的に海外進出をしないことに苦言を呈してきた。藤森LIXILは、米衛生陶器のアメリカンスタンダードや独水栓金具のグローエなどの企業買収を通じて、就任時3%にすぎなかった海外売上高比率を3分の1近くまで拡大した。これは大きな功績だ。
しかし、グローエの独子会社ジョウユウが多額債務に関連していたことから、660億円もの損失を計上したことが、今回の人事の大きな引き金となったとも見られている。
資本家と対峙するプロ経営者の蹉跌
ジョウユウ問題でつまずいてしまった藤森氏に対して、市場は厳しい評価を下していた。藤森氏の着任後にLIXILグループの時価総額は1.3倍になったが、同期間で業界第2位のTOTOはそれを3倍以上とした。LIXILは活発な海外M&Aを展開するなどの投資を続けたため、収益力ではTOTOの後塵を拝してしまっている。潮田氏は自らも大株主ゆえに、そうした株価の情勢にも苛立ちを増していたのではないか。