「内部統制が不十分!」と言うほど、ますます内部統制が不十分に…企業監査の矛盾
東芝の不正会計をはじめ、企業の不正が明るみに出るたびに話題に上るのが内部統制だ。いわく、「内部統制が不十分だ」「内部統制をもっと強化すべきだ」「監査法人は何を見ていたんだ」と。
内部統制という言葉が一般の人にも広く知られるようになったのは比較的最近のことだ。きっかけは、2009年3月期から上場企業の内部統制が監査法人による監査対象になったことだろう。それによって内部統制というものが認知されるようになったことは、確かにいいことだとは思う。しかし、内部統制が監査対象になっているということは、本当にいいことなのだろうか。
内部統制が監査対象なのはアメリカと日本ぐらい
一般の人にとって内部統制は比較的新しいものかもしれないが、会計のプロにとっては以前から常識として知られていた。制度的に監査対象になる以前から、監査法人は企業の内部統制の有効性を評価するということを必ずやっていた。内部統制とは、要は経営管理の仕組みそのもの、さらにいえば仕事のやり方そのものであるから、それを把握しないことにはまともな監査ができないからだ。
それが監査対象になったきっかけは、アメリカにおけるエンロンの巨額粉飾事件だ。監査を担当していた名門アーサー・アンダーセンが粉飾に関与していたため、同社までもが消滅するという事態にまで発展した。この一件をきっかけに、アメリカは内部統制を監査対象とする法案を立法化したのである。
昔も今も、アメリカがくしゃみをすれば日本は風邪をひく。日本でも内部統制が監査対象となったのはその直後だ。しかも、このときはタイミングが悪かった。日本でも西武鉄道の有価証券報告書虚偽記載やカネボウの粉飾が大きな社会問題となっていた。内部統制を監査対象にするのは当然という風潮が、日本でも出来上がっていたのである。
しかし、世界を見渡してみたとき、内部統制が監査対象となっているのはアメリカと日本ぐらいなのである。筆者が知る限り、イギリスでは監査よりも数段簡素なレビュー対象になっているだけだ。ドイツやフランスではレビューの対象にすらなっていない。
監査というのは、監査対象の適正性を積極的に保証することだ。監査する側としては物証が必要になる。だから監査法人は企業側に有形の証拠を求めるのである。そのため企業側は、フローチャートやマニュアルなどの大量のドキュメンテーションや、「とにかくハンコを押しとけ」というような対応に追われることになるのである。