マイクロンと同時並行で紫光集団は、韓国のメモリ大手SK Hynixにも買収提案を行っていたようだが、こちらも断られたとみられている。
以上の結果、紫光集団、つまり中国が大金を積んででも手に入れたかったDRAMとNANDの技術は、入手困難となった。
さらに紫光集団は、台湾のTSMCおよびメディアテックに25%株式取得を提案した。TSMCは製造を専門とするファンドリーメーカーで、その規模は世界最大である。また、メディアテックはスマホ用プロセッサを設計するファブレス(工場を持たない事業者)で、中国のスマホ市場でトップシェアを獲得している。
これに対して、TSMCの張忠謀(モリス・チャン)董事長は、「適正価格であればTSMCの株式を買ってもらって構わない」というような発言をしていた。ところが、台湾の総統選で中国と距離を置く民進党が政権に復帰したため、紫光集団による台湾半導体メーカーの株式取得には待ったがかけられた。
このように、米国や台湾政府が障壁となって、中国による半導体企業爆買いには、暗雲が立ち込め始めてきた。
しかし、中国はこんなことでは諦めず、次の手を打ってきた。
サイノキングテクノロジーによるDRAM立ち上げ
本連載前回記事「世界の工場・中国、なぜ技術者が育たない?判断要する開発やチームワークが無理、サボる」で詳述したとおり、元エルピーダメモリ社長の坂本幸雄氏がDRAM設計開発会社、サイノキングテクノロジーを設立した。同社は中国安徽省合肥市の地方政府が進める約8000億円をかけた先端半導体工場プロジェクトに中核企業として参画する。その際、同社が最先端メモリを設計し、生産技術を供与する。そして、中国合肥市の工場でDRAMを量産するという青写真である。坂本氏と中国の構想では、「日本人と台湾人が技術を開発し、中国が投資をしてDRAMを量産する」ことになる。この構想は悪くない。
しかし、問題がある。坂本氏によれば、「サイノキングは日本と台湾で計約二百数十名の技術者を採用し、このメンバーの経験と技術力を核として、17年中には日本、台湾、中国で計1000人規模の技術者を有するメモリ開発会社にする計画である」という。
第1の問題は、日本と台湾でこれだけの人数の技術者を集めることができるかということである。
第2の問題は、第1の問題が解決できたとしても、誰が、中国で建設された工場でDRAMを量産するのかということである。