ネクステルの買収に関しては、別のところからも不安が出てきた。米携帯電話第1位のベライゾン・ワイヤレスと第2位のAT&Tや、衛星通信放送の米ディッシュ・ネットワークが「ソフトバンク=スプリント・ネクステル」の誕生が通信業界の競争環境を変えるとして、買収に反対している。
ソフトバンクが201億ドル(約1兆7500億円)を投じスプリント・ネクステル株式の70%を取得すると発表したのは昨年10月15日。その直後の12月17日、スプリントは51%を出資する米高速無線通信会社、クリアワイヤを完全子会社にすることで合意した。スプリントが保有していない49%のクリアワイヤ株式を1株2.97ドル、総額22億ドル(約1800億円)で買い取る。
ソフトバンクは買収の条件として、クリアワイヤの経営権確保をスプリントに求めた。その要求に応えてスプリントはクリアワイヤに買収を提案して合意にこぎ付けた。
クリアワイヤが保有する周波数帯は、次世代高速通信LTEを拡大する上で鍵を握る。スプリント買収を通じて米携帯電話業界への進出を狙う孫社長にとって、スプリントによるクリアワイヤの経営支配は絶対的な条件だった。スプリントと豊富な周波数帯を持つクリアワイヤを串刺しにして手に入れることが、当初からの狙いだった。
孫社長の対米戦略は、シナリオ通りに進んでいるように思えた。
ところが、思わぬところから横やりが入った。2013年1月4日、クリアワイヤの8%の株主である投資ファンド、クレスト・フィナンシャルが完全子会社化に待ったをかけた。クリアワイヤが保有する周波数帯の価値を過小に評価しており、株式の買い取り価格が低すぎるというのが反対の理由だ。完全子会社化の差し止めを連邦通信委員会に要請する方針を打ち出した。クリアワイヤの完全子会社化には、少なくとも24.8%を保有する少数株主の承認が必要になるからだ。
さらに1月8日、衛星放送の米ディッシュ・ネットワークはクリアワイヤに対して1株3.30ドルで買収する提案をしたことを明らかにした。昨年12月に合意した価格、1株=2.97ドルを11%上回っている。
それだけではない。ディッシュは1月17日に、連邦通信委員会に対してソフトバンクのスプリント・ネクステル買収そのものの審査を停止するよう求めた。現在、ディッシュはクリアワイヤの買収に向けて努力しており、ソフトバンクによるスプリント買収案を審査するための機は熟していないと主張した。
スプリントがクリアワイヤ株式の過半数を握っているので、ディッシュがクリアワイヤを買収することはできない。ディッシュの買収提案は、クリアワイヤが保有する周波数帯の一部を、より有利な条件で手に入れるための条件闘争と見られている。「米国でいちばん意地悪な会社」(ビジネスウイーク誌)と評されているディッシュは、こういう駆け引きが得意な会社らしい。