山内氏が後継者に据えたのは、ハード体質の荒川氏ではなく、「札幌の天才少年」と呼ばれたソフト体質の岩田聡氏だった。岩田氏は携帯型ゲーム機「ニンテンドーDS」と据え置き型ゲーム機「Wii」を大ヒットさせ、任天堂の黄金時代を築いた。
社運を賭ける新型ゲーム機「NX」は成功するのか
任天堂は次のステージに移った。13年に山内氏が、15年には岩田氏が相次いで亡くなった。
15年9月、君島達己氏が社長に就任した。三和銀行(現三菱東京UFJ銀行)出身の銀行マンで、山内氏が金庫番としてスカウトした人物だ。
新社長として初の決算となる16年3月期の連結決算は、かつての栄光とはほど遠い内容だった。売上高は前期比8%減の5044億円、純利益は61%減の165億円だった。円高の進行で為替差損が183億円発生した。
携帯型ゲーム機「ニンテンドー3DS」の販売台数は22%減の679万台、据え置き型ゲーム機「Wii U」の販売台数は4%減の326万台だった。
17年3月期の連結売上高は前期比1%減の5000億円を見込む。「Wii U」の販売台数は前期比75%減の80万台と激減する。18年3月期以降、「生産を停止する可能性がある」(君島氏)という。
連結純利益は2.1倍の350億円を予定しているが、営業利益は37%増の450億円にとどまる。市場予想(600億円台半ば)を大幅に下回ったことから、4月28日に株価は一時、前日比1480円(9.0%)安の15040円まで売られた。連休の谷間の5月2日も一時、1万4675円(480円安)まで下げ、6営業日連続して株価は安くなった。
任天堂は17年3月に新型ゲーム機「NX」を発売すると発表した。ゲーム機事業は新型機の発売当初はコストが先行し、赤字が大きく膨らむことが多い。据え置き型ゲーム機「Wii U」の生産を大幅に縮小し、NXに経営資源を集中する。製品の特徴や価格、ソフトのラインナップについて君島氏は、「新しいコンセプトのゲーム機。新しい遊び方、新しい体験ができる」と話すにとどめ、詳細は明らかにしなかった。発売時期が、ゲーム機がもっとも売れる年末(クリスマス商戦)から遅れるのは「ハード、ソフトの両方が揃ってこそ、発売時から遊んでもらえる」ためだと説明した。