それだけに、11年にアイーダ・クルーズ向け大型客船2隻を受注したことは、三菱重工の客船建造の復活を示す快挙だった。長崎造船所で建造したが、1番船は当初予定の15年3月から1年遅れて引き渡した。2番船は16年3月の引き渡しだったが、宮永氏は「今年中に引き渡すのは難しいかもしれない」との見通しを示した。
受注額は2隻で1000億円とみられるが、累計損失は2375億円に膨れ上がり、受注額の2倍を超えた。
三菱重工の16年3月期の連結決算の純利益は、前期比42.2%減の638億円。大型クルーズ客船の引き渡しが遅れたことに伴う特別損失を1039億円計上したことが響いた。売上高は航空機部品事業が好調だったことから同1.4%増の4兆468億円、営業利益は4.5%増の3095億円で最高益となった。
3つのリスクに新たに加わった三菱自動車株の減損リスク
これまで、三菱重工は3つのリスクを抱えているといわれてきた。ひとつは米国の原子力発電所の事故に絡む訴訟問題。約75億ドル(約9000億円)の損害賠償請求を受けている。三菱重工は契約上の責任上限が1億ドル強だとして争っている。結果が出るのは16年末以降になる見込みだ。
2つ目は開発が長引く小型旅客機「MRJ」だ。MRJ事業は、三菱重工の威信と社運を賭けた一大プロジェクトである。開発の長期化で総開発費は3000億円にまで膨張した。設備投資や運転資金を含めると、納入開始までに先行投資額は4000億円を超える。
3つ目が前出の大型客船の納期遅れである。
そして今回、新たに三菱自動車の燃費データ改竄問題が加わった。三菱重工は三菱自動車株を20%保有している。三菱自動車株の減損リスクが懸念されているのだ。問題発覚後、三菱自動車の株価は4月27日に実質的な上場来安値(412円)をつけた。三菱重工の帳簿価格を50%以上下回ったとされている。
日産の傘下入りが報じられたことで株価は持ち直してきたが、それでも減損処理が必要になる可能性は高い。
南アフリカの火力発電をめぐり、三菱重工と日立が対立
こうした“四重苦”を抱えていても、三菱重工の成長力を評価する市場関係者は多かった。新興国を中心に火力タービン事業の好調が続き、日立製作所との火力統合のシナジー効果が出始めたとみられていたからだ。