ころがり抵抗は走行速度であまり変わらない。時速50キロメートルまでは、空気抵抗とほぼ同じで、空気抵抗は時速100キロメートルのときの4分の1 だ。したがって、市街地での燃費向上には省エネタイヤが効く。
一方、高速道路では空気抵抗が効く。といっても空気抵抗を少なくする省エネボディが売られているわけではない。空気抵抗はボディのデザインと車速の2乗で決まる。つまり、ユーザーには手の施しようがない。
ただひとつ空気抵抗をユーザーが下げられる方法は、交通の妨げにならない範囲でゆっくり走ることだ。たとえば時速100キロメートル時の空気抵抗は、時速80キロメートル時のそれの1.6倍、つまり60%増しとなる。この2つの速度で高速道路を走る際の感覚はそれほど違わないが、空気抵抗は大きく変わり、燃費もぐっと違ってくる。
加速は大飯食い、アクセルはゆっくり踏もう
加速しているときには、抵抗としてさらに慣性力が加わる。これは自動車が加速したときに背中をシートに押し付ける力と、タイヤや変速機の歯車などの回転を高めるときに必要な力だ。体重が重く、急加速なほど、押し付ける力は大きくなる。
重いSUVを急加速すると、慣性力も大きい。上記のゼロ100加速が5秒というと、加速Gは0.56ほどだから、車重が1900キログラムもの大きなSUVでは、1トン近い力で後ろに引っ張られることになる。車重が3トンのクルマを引っ張って走るようなものだから、当然、燃費はひどく悪化する。
このように燃費を大きく左右するのは加速の仕方だ。ゼロ100加速を5秒で走るような急加速を繰り返していては燃費は最悪で、地球温暖化の原因となるCO2を大量に排出してしまう。加速の強さはアクセルの踏み加減で決まる。ゆっくり踏めば加速力も弱く、燃費の悪化も少ない。しかも、交通事故も減る。
カタログ燃費は創造物である?
では、カタログの燃費はどのようにして測定しているのだろうか。
上記のように燃費には空気抵抗やらころがり抵抗やらが深く関係する。しかし、これらは気温、気圧、湿度、風向、風速、テストコースの平坦度、傾斜等で変わってしまう。同じ日の午前と午後で燃費は変わってしまうことも珍しくない。実際のところ、どれが「本当の」燃費なのか、わからない。
ということで、標準状態を設定し、いつ、どこで、誰が測定しても同じ値になるようにしている。しかも、上記の測定条件は自己申告である。ここに「偽装」が忍び込む。
(文=舘内端/自動車評論家、日本EVクラブ代表)