星野リゾート、最強の経営…カギは20年間の顧客満足度調査、カスタマーセントリックな仕組み
さらにいえば、マルチタスクの範囲がサービス提供に留まらないことも大きな特徴だろう。スタッフはサービスを提供するだけでなく、新しく提供するサービスを決めるための調査や企画といった業務も兼務している。各旅館やホテル全体のコンセプトについては経営層が決めるが、そのコンセプトを体現する星野リゾートならではのサービスについては、スタッフが権限を与えられ、創造に携わる。このようにマルチタスクをこなし、顧客の高い期待値に応えることは容易ではないが、カスタマーセントリックな組織を実現する上では非常に効果的だ。
カスタマーセントリックは、地道な仕組みづくり
カスタマーセントリックな組織になるためには、ビックデータやビックアイデアはなくてもよい。必要なことは、調査で顧客の声を集め、何が利益に結びつくかを把握し、顧客に必要なことを実現する組織をつくるといった地道な活動である。しかし、この地道な取り組みを続けることが、カスタマーセントリックな組織を実現させ、企業の持続的な成長へとつながっていく。
星野リゾートの場合、1994年から「健康診断」として実施してきた顧客満足度調査が、カスタマーセントリック実現の屋台骨となっているのは間違いない。しかしながら、いったいこの堅牢な屋台骨はどのようにしてつくられたのだろうか。
2002年、日産自動車社長のカルロス・ゴーン氏は、社会調査研究所(現在のインテージ社)のある女性が書いた論文を目にした。その論文は、「マーケティング・サイエンス」という領域に関する内容で、消費者の動向について調査結果をもとに科学的検証を加え、客観的な知見やインサイトを導き出すといったものだった。この内容に感銘を受けたゴーン氏はこの女性をヘッドハントし、売上のV字回復を実現した。その後も、この女性は日産のマーケティング力の向上に大きく貢献し、今では日産初となる女性専務となった。この女性こそ、星野社長の夫人でもある星野朝子氏。
星野リゾートのカスマーセントリックの実現は、この夫人の功績が案外に大きいのかもしれない。
(文=村澤典知/インテグレート執行役員、itgコンサルティング 執行役員)
顧客の顕在ニーズを刈り取るだけで、新たな需要の創造ができていない。
そんな悩めるマーケターに、いま必要なのは、消費者の心の奥にある、彼ら自身も気づいていない本音をつかむこと。
そして、企業内にカスタマー・セントリック(顧客中心主義)の思想を根付かせること。
戦略を決定する際、社内事情にとらわれていませんか。
意思決定の基準を「顧客」に置き、イノベーションを起こすためのメソッドをお伝えします。
【Introduction】売れ続けるための仕組みをつくるというイノベーション
【Chapter1】機能不全に陥った、日本企業“マーケティング”のなぜ?
【Chapter2】あなたは、本当にマーケティングの「課題」に気づいていますか?
【Chapter3】モノが売れない時代に必要な戦略企画「2つのステップ」
【Chapter4】 生活欲求×購買欲求で「売りにつながる」ストーリーをつくる4つのポイント
【Chapter5】PDCAを回して小さな仮説を魅力的なストーリーに昇華させる!
【Chapter6】デジタル&データを、売れるストーリーづくりに活かす!
【Chapter7】ストーリーに巻き込むべき、最強の敵は社内他部門! ?