実際、90年代以降、日本企業は雇用、設備、債務の「3つの過剰」を解消し、強固な財務体質の構築へと守りに舵を切った。リストラを進め、人材や研究開発への投資を削り、新たなビジネスの創造や未来へのチャレンジを放棄した。経営者を小粒にした背景といえる。
しかも、現在トップに就いているのは、部課長時代に「3つの過剰」対策に奔走し、実績をあげたエリート社員たちだ。いわゆる管理型のトップである。管理型のトップが進めるのは、失敗を許容せず、チャレンジを否定する守りの経営だ。これでは、経営のイノベーションは起こらない。
一方で、経済成長が鈍化するなかでも、攻めの経営の実践者はいる。オーナー経営者だ。その代表といえば、ソフトバンクグループ社長の孫正義氏、「ユニクロ」のファーストリテイリング社長の柳井正氏、そして、日本電産社長の永守重信氏である。いずれも、オーナー経営者である。
たとえば永守氏は、優れた技術をもつ赤字企業を次々と傘下に収め、再生させるM&A(合併・買収)戦略を極め、現在の連結売上高1兆円を2030年には10兆円にすると公言している。彼らオーナー経営者に比べると、サラリーマン経営者のスケールは、小さいといわざるを得ない。
オーナー社長とサラリーマン社長
次に、社長の小粒化の内部要因を探ってみよう。
指摘するまでもなく、オーナー社長とサラリーマン社長とでは、リスクのとり方に大きな違いがある。オーナー社長には、もともと創業の精神すなわち大義がある。孫氏は「情報革命で人々を幸せに」、柳井氏は「服を変え、常識を変え、世界を変えていく」、永守氏は「世界一になる!」が大義だ。
オーナー社長は情熱を120%使い切り、その思いの実現に向けてまっしぐらに走る。米テスラ・モーターズ、スペースXを率いるイーロン・マスク氏が、EVやロケットなど次々と新しいビジネスを打ち出しているのは、彼がオーナー社長で夢の持ち主だからだ。
オーナー社長は失敗もできる。イーロン・マスク氏は、「失敗は選択肢のひとつだ。何も失敗していないとすれば、十分にイノベーションを興していない証拠だ」と05年の米誌のインタビューで答えている。
それに対して、内部昇格で組織の頂点にのぼりつめたサラリーマン社長は、大義を論ずる以前に、そもそもリスクをとることができない。失敗すれば、自分の地位が危うくなるからだ。おのずと調整型トップになる。