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前川修満「会計士に隠しごとはできない」

ソフトバンク、深刻な経営危機的状況…巨額現金流出超過、大型買収が失敗

文=前川修満/公認会計士・税理士、アスト税理士法人代表

 この買収によって、ソフトバンクGの売上高は3兆円程度の規模から9兆円に成長しましたが、上述したようにCFのデータや貸借対照表のデータをみる限り、大きな経営難に直面したといわざるを得ません。したがって、アローラ氏が退任し、引退するはずだった孫氏が続投になったのも、この経営難ではとても孫氏が辞められないというのが正直なところではないでしょうか。

 これだけ大きな有利子負債を抱えてCFが悪化した場合、この先、事業の再構築が急務になります。つまり、資金負担を軽くするために事業を売却するなどして、投資CFのマイナスを小さくしないと会社が持たないのです。

 今年6月には、ソフトバンクG傘下のスーパーセルの売却が発表されました。同様にアリババ株式の一部売却やガンホー売却も発表されていますが、これらの動きはスプリント買収の失敗の穴を埋めるためのものです。

 しかし、これだけで十分だとはいいがたいと筆者は考えます。最終的にはスプリントからの撤退もあり得るというのが、財務データを分析した筆者の正直な感想です。

さらなる巨額買収

 7月18日、ソフトバンクGは、半導体設計大手ARM(アーム)ホールディングスを買収することで合意したと発表しました。買収総額は約240億ポンド(約3.3兆円)で、日本企業によるM&A(合併・買収)としては過去最大規模となります。

 この投資行動について、筆者は「投資の失敗を別の投資の成功で埋めしようとしている」と分析しています。ARMは15年年末において、総資産2120.2百万ポンド、総負債322.600万ポンド、純資産1797.6百万ポンド(約2500億円)の優良企業であり、ほぼ無借金経営です。

 また、15年の営業CFはプラス379.500万ポンド、投資CFはマイナス198百万ポンド、事業活動のCFはプラス181.5百万ポンド(約250億円)です。この買収により、今後ソフトバンクGの営業CFは若干改善されることが予測されますが、そもそもソフトバンクGの15年度の事業活動のCFはマイナス7115億円もあり、ARMの営業CFのプラス(約250億円)が最大に寄与しても不十分です。

 よって、今後ソフトバンクGでは、事業の再構築のために、これ以外にも大掛かりな事業の買収(もしくは売却)が行われるはずです。
(文=前川修満/公認会計士・税理士、アスト税理士法人代表)

前川修満/公認会計士・税理士、アスト税理士法人代表

前川修満/公認会計士・税理士、アスト税理士法人代表

1960年石川県金沢市生まれ。同志社大学商学部卒業。公認会計士・税理士・日本証券アナリスト協会検定会員。澁谷工業株式会社、KPMG港監査法人(現・あずさ監査法人)を経て、1992年に公認会計士・前川修満事務所を開業。2006年にはアスト税理士法人を設立し、代表社員に就任。これまで、数多くの経営者や会社員に、セミナーや書籍を通じて決算書の読み方を解説してきた。決算書を通して企業の「裏の顔」を見つけ出す方法とその面白さを知ってもらいたい、との思いから2015年に『会計士は見た!』(文藝春秋)を執筆。『やっぱり会計士は見た!―本当に優良な会社を見抜く方法』は、決算書から「裏の顔」を見出す手法をいかし、優良な会社をいかに見抜くか、さらにそこから日本企業が今後何をすべきか、という視点で著した。

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