トヨタ、自動車ローンで驚異的高収益…小売業を必ず衰退させる「儲かる金融事業」
ところが、70年代に専門店やウォルマートのようなディスカウントストアが台頭して、小売業での競争が激化するなか、シアーズの小売の売り上げは停滞し始める。そして、当時の経営者は利益率が高い金融事業の成長を促進すべきだと考えた。貯蓄貸付組合(貯蓄と住宅ローンに特化する米国の中小金融機関)を買収し、80年代には不動産会社や証券会社まで買収した。90年代半ばまでには、子会社が発行したクレジットカードは6000万人の会員をもち、消費者債権は280億ドルまでになった。小売事業部の利益率が2~3%だったのに比べて、クレジット事業部の利益率は2ケタ台。クレジット事業部の売り上げは企業の収益全体の10%だったが、営業利益の70%を占めるまでになっていた。
企業価値向上を求められる経営者としては、利益性の高い事業を推進しようとするのは当然のことかもしれない。だが、金融事業を拡大するための買収にかかる負債も増え、結果として本業である小売業への投資が制限された。必然的に、本業の小売業の業績はさらに悪化し、80年代後半には毎年8%利益が減少。結果として、90年代には買収した金融関連会社を次から次へと売却するはめになった。
その後、本業である小売業の活性化を何度も試みているが、成功はしていない。2015年の米国小売業売上ランキングでは18位となっている。
小売業が金融サービスを行うと成功する
英国の小売業売上高No.1で、世界的にもNo.5以内に入るテスコの創立は1919年。最初は食品中心のスーパーマーケットだったが、衣料品や家電、家具も売るようになった。95年にポイントカードを発行し、収集した顧客データの分析から購買行動予測に進むとともに、生命保険や旅行保険、ローンの販売も始め、97年にはRBS銀行との合弁でテスコ銀行も創立、08年に子会社化した。
だが、12年ごろから本業の小売業の売り上げが減少し始めた。ドイツから安売り店が進出してきたこともあるが、なによりも金融サービス、海外進出とかレストランやコーヒーショップなどへと多角化を進めるなか、英国消費者のライフスタイルや購買習慣が変化していることを見過ごしたことが要因だといわれる。1500万人の顧客データの分析に基づくパーソナライズされた販促活動やプライベートブランド(PB)開発では世界一と称えられたテスコが、消費者の変化を見逃したと批判されるようになったのは皮肉だ。この事実は、顧客データ分析の限界も教えてくれる。