訪日外国人旅行者の急増などによって、ホテル不足が深刻化している。政府は、東京五輪が開催される2020年までに外国人旅行者の数を15年の約2倍となる4000万人に引き上げる「明日の日本を支える観光ビジョン」を策定したが、このままでは目標達成は厳しい状況だ。
そこで、政府が打ち出したのが、ラブホテルを観光客向けの一般ホテルに改装する際、条件付きながら、ホテル事業者が政府系金融機関からの融資を受けやすくするという“奇策”。いわば、政府が「ラブホ改装」の後押しをするというわけだ。そこで、外国人旅行者をめぐる政府とラブホテル業界の事情を探った。
ラブホテルは法的には風俗業に分類される
「これまで、政府系金融機関はラブホテルにはお金を貸しませんでした。『公序良俗に反する事業への融資はできない』というのが、政府の立場だったのです」
そう話すのは、レジャーホテル・ラブホテル経営コンサルタントの平田壯吉氏だ。
ラブホテルとは、簡単にいうと男女のカップル専用ホテルのことを指す。ラブホテルに関する最初の規制条例となった1981年の「東大阪市ラブホテル建築規制に関する条例」では、ラブホテルを「ホテル等のうち、異性を同伴する客の宿泊又は休憩の用に供することを目的とする建築物」と定義。ラブホテルという名称は、69年に大阪府にできた「ホテル・ラブ」に由来し、以前は「連れ込み旅館」「連れ込みホテル」などと呼ばれていた。
ラブホテルと一般ホテルは、外見上では区別がつかない場合も多く、平田氏によると、「建物の外に誘導看板があれば一般ホテル、なければラブホテル」という程度の線引きしかない。しかし、実際には、ラブホテルと一般ホテルは開業時に役所に出す届出ひとつ見ても、まったく別物なのである。
「一般ホテルは『旅館業』の許可さえあればいいのですが、ラブホテルをオープンする場合は、それに加えて『性風俗関連特殊営業』の届出が必要です。ラブホテルから一般ホテルに転業するなら、すでに提出している『性風俗関連特殊営業』の届出を取り下げることになります」(平田氏)
「性風俗関連特殊営業」の届出が必要となるラブホテルは、法律上「店舗型性風俗特殊営業」に分類される風俗業だ。だからこそ、政府系金融機関も「公序良俗に反する事業への融資はできない」という立場をとってきた。多くの自治体も、「ラブホテルは地域の生活環境を害し、青少年に有害な影響を与えるおそれのある施設」として、営業や建築を規制している。
ところが、政府はそれまでの方針を大転換して、政府系金融機関に「一般ホテルに転業しようとしているラブホテルには、お金を貸してあげなさい」と通達したわけだ。
「2020年に訪日外国人旅行者の数を現在の約2倍に引き上げようにも、ホテル不足が解消されなければ目標達成はできません。『風俗業には融資しない』などといっている場合ではなく、背に腹は代えられなくなったのでしょう」(同)