自動車雑誌は「反撃の狼煙」? 日産の国内市場重視は“唖然とするほどカラッポ”だ
最近、自動車雑誌では日産自動車への応援ページがよく見られる。
これまで日本市場を軽視した日産へは、珍しく否定的な記事を書いてきた自動車媒体だけど、カルロス・ゴーン氏の一件に加え、今回のコロナ禍という非常事態ともなれば、もうそろそろ応援の方向へ舵を切ろうかという機運なのかと。
そこに来て、5月28日に行われたオンラインでの2020年3月期決算発表会見では、最終赤字6712億円という負の話だけでなく、「NISSAN NEXT」と称する今後4カ年の計画として、新型車と思われるシルエット群がスクリーンに映し出された。そこに「フェアレディZ」らしきクルマがあったものだから、自動車メディアは騒然となったのである。
こいつを記事にしなければ! ということで、とりわけB5判系雑誌では「これが次期Zだ!」「次期Zは原点回帰か!」という期待たっぷりの予想イラストが展開され、ほとんど興奮状態となった。
さらに、なんと10年ぶりの新型車であるコンパクトSUV「キックス」の発表に当たっては、「日産の逆襲が始まった」「日産の反撃の狼煙が上がった」とアゲアゲ気分が満載、続くクロスオーバーEV「アリア」の発表では「日産、国内重視の序章」とまで見出しを打った。
では、本当に日産は国内市場で反撃に出たのだろうか?
そこで、あらためて先のシルエット群を見てみれば、フェアレディZのほかには「キャシュカイ」「ローグ」「パスファインダー」に「フロンティア」といったミドルからラージクラスのSUVばかりで、どう考えても日本市場を重視したものとは思えない。もちろん、今秋の登場とされる新型「ノート」もあったが、そもそも国内は軽自動車とセレナ、ノートしか売れないという状況が変わるものじゃない。
だいたい、雑誌が持ち上げる新型キックスは、周知の通り4年前に発売された新興国向けSUVの厚化粧版。多少の安っぽさがあっても評判のe-POWERで売ってしまえという代物で、この期に及んでこういうことするか? と。アリアに至っては、そもそもがEVという多量販車種じゃないし、なんと発売は来年の半ばときている。
ゴーン氏の事件があったとき、自動車媒体の多くでは「これで日本人がトップに就けば、日産は国内向けに魅力的な商品を出すだろう」という趣旨の記事が躍っていた。外国人経営者が去れば「往年の日産」が帰ってくるなど、ずいぶんとお気楽な内容だ。
それに対し、先の会見では「選択と集中」という経営陣にとって都合のよいはやり言葉を使い、偏重した車種群を「もったいぶって」発表した。だから、いま自動車媒体が書くべきは「僕らのZが帰ってくる!」なんてことじゃなく、そのカラッポな国内市場対策のはずだろう。
ゴーン改革時との歴然たる差
皮肉なのは、やはり6000億円を超える負債を抱えた日産にやって来たゴーン氏によるV字回復策では、3代目マーチや2代目キューブ、ティーダ、シルフィにティアナ、フーガに33型Zなど、優れたセンスと知恵でスタイリッシュなラインナップがズラリと並んだことだ。つまり、コストカットだけでなく肝心の商品にも力を入れた。
日産は、21年3月期にも6700億円の最終赤字を想定している。その途方もない数字にも驚くが、少なくとも国内市場には当面コレというラインナップがないことに唖然とする。『このままで、終われるか。』というキックスのコピーは“やってる感”に溢れるが、終われない理由が見当たらないのではシャレにもならないのである。
(文=すぎもと たかよし/サラリーマン自動車ライター)