それは1部上場の大企業のトップ交代に関する報道にしては、異例なものだった――。
11月28日の午後2時30分、日本経済新聞電子版が「三井住友トラスト、統合主導の2社長交代 ガバナンス刷新」という速報記事を配信した。
「三井住友トラスト・ホールディングス(HD)は北村邦太郎社長(64)と傘下の三井住友信託銀行の常陰均社長(62)が来年4月にも交代する人事を固めた。今夕に開く指名・報酬委員会に諮る。(略)年度内に後任を絞り込む」(同記事より)
「『指名委員会等設置会社』へ移行する予定だ。今回は移行に先立ち、指名委を発足。トップ選考も同委に委ねる」(同)指名委員会等設置会社は、取締役会の中に、 取締役と執行役の職務が適正かどうかを監査する「監査委員会」、取締役と執行役の報酬を決める「報酬委員会」、株主総会に提出する取締役の選任・解任に関する議案内容を決定する「指名委員会」の3委員会が設置され、相互補完することで機能が発揮される。ちなみに、各委員会のメンバーの過半は、社会取締役が占めなければならないと定められている。また、取締役会の決議によって選任された執行役が業務執行を行い、取締役会は基本的な経営事項の決定や、執行役とその職務執行を監督する権限を有することで、経営を行う執行役と、それを監督する取締役会の機能が分離・独立される。
通常、大手メディアが大企業のトップ人事交代を確定的に報じる場合、その後任人事が決定されてからなされるケースが多いが、今回の三井住友トラストHDに関する報道では、「年度内に後任を絞り込む」とされている。
11月28日付日経報道に各メディアは追随したものの、後任人事を報道したものはなく、すでに1カ月が経過した今も、三井住友トラストHDから社長人事に関する発表はない。
あるメガバンク首脳は語る。
「いくら指名委員会が設置されていても、委員の過半を占める社外取締役は、次期トップを人選することなどできないので、企業サイドが指名する候補者を検討することになる。そして、候補者が提示され、次期トップが決まってから現トップの退任を発表するのが、メガバンクでは通常の流れとなる」
金融庁の意向に背く
では今回、なぜ現トップの退任報道が先行したのか。
実は三井住友信託銀行の常陰社長の退任の可能性については、同行担当記者のなかで知らない者はおらず、“発表のタイミング待ち”のような状況になっていた。この背景には、金融庁の森信親長官が、常陰社長の経営に対して「ガバナンス上の問題がある」とし、事実上の退任勧告を行っていたことがある。