スタバより顧客満足度高いドトールより約2倍も高額でも客殺到…極上の時間味わえるカフェ
取材前日、筆者は一般客として同店を訪れて、「鴨サンドセット」(1242円)を頼んだが、この商品も昨年投入したという。「店の伝統を大切にしつつ、多様化するお客さまのご要望に応えるために新メニューを開発しています」(秋吉氏)。「珈琲・果汁・音楽・読書のための空間」が同店のコンセプトだ。由布院らしさや店のルーツを伝えるために、一年中グレゴリオ聖歌の音楽が流れる。最近は女性客が多く、ひとり客も増えたという。
雑木林も楽しめる「ティールーム・ニコル」
玉の湯の敷地内にある「ニコル」は、天井棧敷よりも隠れ家的存在だ。文芸評論家として名高い小林秀雄氏(故人)のアドバイスでつくられた旅館入口の小径を進むと、左手に現れる。店内にある12の座席は、ガラス越しに見える雑木林を楽しんでもらえるよう、すべてテラス席となっている。雑木林は、日田市立博物館の研究員出身で自然にくわしい溝口薫平氏(玉の湯会長)が植えて育てたクヌギ、コナラ、ケヤキなどの「木」のほかに、社長の桑野和泉氏がさまざまな「花」を植えた。
「カフェで座って見る景色は、上ではなくて下です。座った時に見える花として、季節のもので、由布院と調和する無理のない品種を選んでいます」と桑野氏は話す。たとえば、この時季には、スノードロップが目を楽しませてくれる。「せっかく由布院にお越しいただいたのですから、1時間でも2時間でも“由布院時間”を楽しんでいただきたいですね」(同)
声高に主張しない店だが、コーヒー(520円)は、神戸にしむら珈琲店の豆を使用。ただ豆を使うだけでなく、導入時には実際に、にしむら珈琲店にスタッフを派遣し、接客マナーも学んだ。名物女性店主だった川瀬喜代子氏(故人)も快く受け入れてくれたという。紅茶は、飲みやすくて万人に好まれる味である「ディンブラ」を用いる。
スイーツの数は多くないが、りんごの甘さと酸味が絶妙な手づくりのアップルパイ(520円)が一番人気だ。コーヒーとセットで930円、紅茶とセットで1040円となっている。この2店が、お客に訴求するものは共通している。風景や空間を感じながら飲食できること(参加型)と、その店でしか味わえない味と雰囲気(限定型)だ。
冒頭で触れたドトールは、スイーツとコーヒーのセットで600円程度だが、天井棧敷もニコルも1000円前後となっている。利用客の印象を聞いてみたところ、「景色も楽しめる贅沢なひと時なので満足しています」という声だった。脱日常の場なので、本格的な商品メニューや接客に磨きをかければ、これぐらいの価格差は許容範囲のようだ。