(「Wikipedia」より 撮影:わたらせみずほ)
イオンはダイエー株式を公開買い付け(TOB)し、連結子会社にする。買い付け価格は1株270円。買付代金の上限は403億円だ。
丸紅と丸紅リテールインベストメントが、ダイエー株式を29.34%保有している。このうち24%についてTOBに応募する。イオンは、丸紅の応募分と、すでに保有しているダイエー株式を合わせ、44.23%の株式を保有する。TOBには上限を設けず、他の株主からの応募分を含め5割超の取得を目指すが、買い付け価格が低いため難しいかもしれない。それでも取締役の過半数をイオンから送り込むことで、子会社として要件を満たす。ダイエーの上場は維持する。
TOBは、公正取引委員会の企業結合審査が終了し次第、実施する。「特定地域でシェアが高くなりすぎないかの審査に時間がかかる」(公取委)として、2次審査に入ったため、TOBの開始は7月中旬ごろにずれ込む。
公取委は、ヤマダ電機によるベスト電器買収の際に、小売業の買収の指針を定めた。同一グループの店舗による市場支配を避けるため、ベスト電器の8店を第三者に譲渡することを条件に買収を認めた。イオンによるダイエーの買収にも、この指針が適用される。地方での重複店舗の売却を求められることはあり得るだろう。
イオンの2013年2月期の連結売上高(見込み)は5兆6500億円。ダイエーは8430億円。両社を合計すると6兆4930億円。セブン&アイ・ホールディングスの5兆300億円を上回る、巨大流通グループが誕生することになる。
イオンは中期経営計画で「大都市シフト」を掲げ、都市部での事業強化に注力している。ダイエーを子会社にするのも、この一環だ。イオンの岡田元也社長(61)は、ダイエーは経営再建の過程で不採算店を閉鎖しているため、関東や関西の都市部に収益性の高い店舗が多いとみており、「大都市への事業シフトに貢献する」と語る。
イオンの弱点は、イトーヨーカ堂やセブン-イレブンを展開するセブン&アイに比べて首都圏に拠点が少ないことだ。03年ごろから首都圏の食品スーパーのカスミやマルエツなどに出資して巻き返しを開始した。東京や神奈川の都市部に小型スーパー「まいばすけっと」を展開中。企業買収にも着手し、1月に英テスコの日本法人を子会社にした。3月には、J.フロントリテイリングから食品スーパー「ピーコックストア」を買収すると発表。都市での店舗強化のための投資にカジを切った。ダイエーの買収も、この流れに沿ったものだ。
たしかに「都市のセブン(&アイ・ホールディングス)、地方のイオン」という構図が崩れてきているが、まだまだ都心部は攻めきれていない。
もうひとつ、イオングループに唯一、欠けているのは、小売業界の華である百貨店である。百貨店を持つことが、岡田社長の悲願でもある。
ピーコックは、大丸松坂屋百貨店を運営するJ.フロントリテイリングの傘下の食品スーパーだ。これを機にJ.フロントとの資本・業務提携を模索するとの観測が出ている。
●イオンとダイエーの共通項
「(イオンとダイエーは)消費者主権という価値観を、ともに共有している。かつてはライバルだったが、恩讐を超えて交われば、(合併による相乗)効果がある」
イオンの岡田社長は買収を発表する記者会見で、こう語っている。確かに、その通りだ。
もともと三重県の小さなスーパーからスタートしたイオンの創業者である岡田卓也氏(87)にとって、ダイエーの買収はひときわ感慨深いものがあるだろう。ローカルスーパーを結集してジャスコ(現イオン)を発足させた岡田氏のスーパー人生は、中内功(※編註:「功」の字は力を刀と書く)氏が率いるダイエーとの死闘の連続だったといっても過言ではない。
1960年代半ば、日本で流通革命が開花した。スーパーの王者は中内・ダイエーだった。ダイエーの大型店が出店すると、ジャスコの店舗は次々と閉鎖に追い込まれた。「タヌキやキツネの出るところ、カエルの鳴くところに店をつくれ」。卓也氏は、こう号令した。ダイエーと同じ商圏で正面から衝突しても勝ち目がないと判断したのだ。