原油は投機の対象ともなるため、リスクマネーが流入すると価格は実際の需給と関係なく乱高下することがある。08年には1バレル145ドルにまで暴騰した。日本のLNG調達価格は、こうした影響をもろに受けてしまうリスクを抱えていた。
一方、米国ではシェール革命による生産増加によって需給が緩み、ガス価格はアジアでの取引価格よりも割安で、この傾向はしばらく続くと見られる。JERAからLNGの供給を受ける東電や中電にとっても、メリットは大きい。
原発が次々と稼働停止し、大手電力会社はその分の電力供給を補うためにLNGを燃料とする火力発電所を稼働させた。LNGの輸入量が激増した時期は、原油価格が1バレル100ドル超と高騰していたタイミングで、これは大手電力の経営を悪化させる一因となった。今後はリスク分散で経営の選択肢が広がるだろう。
原発を推進する「理由」
JERAが1月に輸入したのは2週間分の燃料に当たる7万トンだけだが、今年は計約150万トンを調達する計画だ。18年後半には年間調達総量の1割に当たる計400万トンに拡大するとしている。東京ガスも今年度後半には140万トン、大阪ガスは18年に220万トンを調達する予定だ。それぞれ年間のLNG調達量の1割、2割超に相当する。こうした動きが本格化すれば、消費者は料金の低下という恩恵を受けられる可能性も出てくる。
米国ではメリーランド州、ルイジアナ州、テキサス州に4つのLNG輸出基地を建設中。アジア・欧州向けの拠点となり、16~19年の稼働開始を予定している。ドナルド・トランプ米大統領は資源開発に積極的といわれ、このことも追い風になるかもしれない。
気になるのは、天然ガスの環境負荷だが、自然エネルギー財団の大野輝之常務理事はこう語る。
「天然ガスのコンバインドサイクル発電は、化石燃料を用いた火力発電のなかでは、もっとも二酸化炭素排出量が少ないので、石炭火力よりはずっといいものです。パリ協定によって、今世紀後半には温室効果ガス排出ゼロを実現しなければなりませんし、まず電力部門は2050年には排出ゼロにしないといけないので、そこまで展望すれば、いつまでも天然ガスを使うわけにはいきませんが、自然エネルギー100%への過渡的なエネルギーとしては有効だと思います。シェールガスの輸入は、日本の天然ガス調達ルートを多様化し、石油連動だったコストを引き下げる意味があるので、その意味でいいことだと思います。ただ、アメリカではシェール生産にともなうさまざまな環境影響が指摘されているので、そうした問題を抱えていることも認識すべきです」
将来的には再生可能エネルギーをメインにするにしても、短期的には天然ガスに頼らざるを得ないだろう。天然ガスが安く安定的に確保できるのであれば、原発を推進する理由はまったく見当たらない。それでも安倍政権は原発を再稼動するのか。
(文=横山渉/ジャーナリスト)