それが実現すると、アマゾンは新しいコト・モノを生み出し、市場を創造することができるようになるだろう。ビッグデータを活用することによって、企業の生態系が自己増殖的に拡大する。中長期的に、そうした展開は排除できない。
ネットワークをめぐる競争に備えよ
アマゾンの経営は他の米国ハイテク企業から一歩抜け出している。最終的に自己増殖的なビジネスプラットフォームの構築を目指しているという点で、アマゾンの戦略には切れ目がなく、エレガントだ。グーグルの親会社アルファベットは、持ち株会社制に移行することで事業ポートフォリオを拡充し、成長を加速しようとしている。しかし、同社は広告ビジネスと個人情報保護の問題に直面している。アップルはデバイスメーカーとしての存在感は大きい。しかし、ネットワークの点ではアマゾンに出遅れている。
わが国の株式市場では、個々の企業の成長性を見定めようとする投資家が増えつつある“SUNRISE(日の出)銘柄”と呼ばれるソフトバンク、任天堂、リクルート、ソニーは、積極的な投資戦略やIT技術を生かしたコンテンツの開発、半導体市場でのシェア獲得で注目を集めてきた。こうした企業は、ネットワーク技術の高度化の恩恵を受けるだろう。問題は、自らネットワークを拡大し、自社の成長基盤を強化しようとしているかだ。現時点では、国内企業の戦略にそうした取り組みは見当たらない。
ネットワークを他社に先駆けて拡大できた企業は、ビッグデータの入手においてより有利な立場に立つだろう。企業=ミクロレベルの目線で考えると、ビッグデータを成長につなげるという点で、戦略は目的と適合している。
マクロのレベルで考えた時、特定の企業が多くのプライベートな情報を手中に収めることには注意が必要だ。それを防ぐために、規制強化に向けた議論は進みやすい。それに加え、わが国でもアマゾンと対等に競争できる企業を育てるべきだ。政府は競争原理を発揮し、企業が切磋琢磨する環境を整備していかなければならない。企業は、業界の慣行や旧来の発想にとらわれず、連続的なイノベーションを目指す必要がある。
アマゾンをはじめ、米国のハイテク銘柄は割高だ。どこかで相場が調整する可能性は排除できない。しかし、それがネットワークの拡大競争の終わりになるわけではないはずだ。ネットワークが社会に浸透するにつれ、人工知能を用いたビッグデータの活用も進むだろう。その動きに対応していくことが、国内企業の競争力と経済基盤を左右するだろう。
(文=真壁昭夫/信州大学経法学部教授)