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村澤典知「時事奔流 経営とマーケティングのこれから」

日本を脅かすIT大国・中国の急成長…圧倒的な先進性、ユーザー規模は数億人

文=村澤典知/インテグレート執行役員、itgコンサルティング 執行役員

テンセントアリババを中心とする中国IT企業の躍進

 市場規模の拡大は、おのずとナショナル企業の強化にもつながる。中国IT業界のリーディングカンパニーであるテンセントやアリババの時価総額は35兆円以上であり、日本企業で長らくトップの座に就いているトヨタ自動車の約17兆円をはるかに上回る。

 テンセントという社名をあまり聞き慣れない方もいるかもしれないが、04年に香港市場に上場を果たした、中国の大手IT・インターネットサービス企業である。直近では、時価総額のアジア企業ナンバー1はこのテンセント、ナンバー2はアリババであり、世界全体でもトップ10、11位につけている(※4)。また、テンセントのメッセージアプリ「WeChat」(日本でいう「LINE」のようなもの)や、アリババの運営する中国最大のC2Cショッピングサイト「タオバオマーケットプレイス」など、彼らの提供するサービスのユーザー数は、MAUベース(月間アクティブユーザー数)で数億人に達するものも多い。

 それだけではない。中国企業は、規模のみならず質の面でも変化を遂げている。いまや彼らは、安価で豊富な労働力をベースとしたコスト競争力ではなく、ビッグデータやAIなどデジタルによるイノベーションに経営の軸足を置いているのだ。例えばテンセントでは、WeChatやチャットアプリ「QQ」、総合的なSNS「Qzone」、オンラインゲーム等のデジタルコンテンツ、そして決済プラットフォーム「WeChat Pay」から集められる多様なデータをユーザー軸で統合し、ユーザー個人のより正確なペルソナを描き出している。

 それに基づき、精緻さの増したターゲティング広告やパーソナライズ化したサービスを提供することが可能になっている。また、すでに中国の深センにAI研究所を設置し、数年前から基本的な研究は進めていたが、今後はシアトルにも新たにAI研究所を置いて当分野の研究をさらに加速させる方針だ。

 ここにはマイクロソフトの元主席研究者Yu Dong氏を代表に据え、音声認識と自然言語処理を主に研究していくことが計画されている。テンセントの圧倒的な強みは、やはりWeChatが抱える8.8億人の顧客基盤だ。この膨大なユーザーが生成する会話データを解析できれば、テンセントは他社にはないイノベーションを実現することができるだろう。

村澤典知

村澤典知

インテグレート執行役員、itgコンサルティング執行役員。一橋大学経済学部卒。トヨタ自動車のグローバル調達本部では、調達コスト削減の推進・実行を中心に、新興国市場での調達基盤の構築、大手サプライヤの収益改善の支援に従事。博報堂コンサルティングでは、消費財・教育・通販・ハイテク・インフラなどのクライアントを担当し、全社戦略、中長期戦略、マーケティング改革、新規事業開発、新商品開発の導入等のプロジェクトに従事。A.T.カーニーでは、消費財・外食・自動車・総合商社・不動産・製薬業界などの日本を代表する企業のグローバル成長戦略、中期経営計画、マーケティング改革(特にデジタル領域)、M&A、組織デザイン、コスト構造改革等のプロジェクトに従事。2014年より現職。大手メーカーや小売、メディア企業に対し、データ利活用による成長戦略やオムニチャネル化、新規事業開発に関する戦略策定から実行までの支援を実施。


株式会社インテグレート

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