スタバの驚異的成長
こうして、高品質のコーヒーを低価格で提供することでドトールは成長してきた。その一方で、大きな脅威となったのがスタバだった。90年代中頃、アメリカで流行していたスタバが日本に上陸すると業界では囁かれていた。当初は楽観論が支配的で、「ドトールでは『スターバックスの出店計画では、家賃負担が重いため、成功するはずがない』という見方が大勢だった」(「日経ビジネス」2002年4月15日号)という。
とはいえ、どうなるかがわからないのが経営のため、鳥羽氏はスタバへの対抗策を講じることを怠らなかった。「鳥羽が力を入れたのが『1255(ワン・ツー・ゴー・ゴー)作戦』と呼ばれる事業展開だ。この数字は当時、DCS(ドトールコーヒーショップ)を全国展開した場合の臨界店舗数を試算したもの。1255店で全国展開を早期に実現するのが、この作戦の狙いだった」(同記事)というものだ。
鳥羽氏はスタバが上陸する前に限界まで店舗網を広げ、スタバに付け入る隙を与えないようにしようと考えた。しかし、スタバは鳥羽氏の想定よりも早く日本に上陸した。そして、ドトールが臨界店舗数に達する前に、スタバは瞬く間に全国へ広がっていった。
現在はスタバの店舗数がドトールを上回っている。そしてドトールの店舗数は長らく概ね1100店台で推移している状況で、スタバに対抗するどころか停滞している。鳥羽氏の作戦は失敗したといえるだろう。
ただ、ドトールはスタバを抑えることができなかったが、一方で大きな収穫を得た。新業態の「エクセルシオール カフェ」が誕生し育ったことだ。鳥羽氏は「もしスターバックスなどの外国勢が出てこなかったならば、エスプレッソ・カフェという業態に気がつきませんでした。二百五十円、三百円でコーヒーが売れるということがわかりませんでしたね」(「財界」/2001年6月26日号)と述べている。エクセルシオール(7月末時点で124店)はスタバが日本に上陸した3年後の99年に1号店がオープンしたが、スタバというライバルがいたからこそ誕生し育ったといえる。
このようにして、エクセルシオールが育ち、さらに運営する喫茶店「星乃珈琲店」(5月末時点で188店)も順調に拡大している。だが、主力のドトールが伸び悩んでいるのが悩みの種だ。ドトールが光ってこそ、エクセルシオールや星乃珈琲店も映えるというものだ。
そうしたなか、ここにきてスタバの顧客満足が低下したことで、再びドトールに光が当たっている。近年はスタバに隠れがちだったが、そうしたなかでもドトールのコーヒーに対する情熱や価値は衰えていなかった。ドトールの価値を認める根強いファンが支えるかたちで、高い顧客満足を維持しているといえる。JCSIでそのことが鮮明となったのではないだろうか。ドトールがこのまま1位をキープしていくのか、注目していきたい。
(文=佐藤昌司/店舗経営コンサルタント)
●佐藤昌司 店舗経営コンサルタント。立教大学社会学部卒。12年間大手アパレル会社に従事。現在は株式会社クリエイションコンサルティング代表取締役社長。企業研修講師。セミナー講師。店舗型ビジネスの専門家。集客・売上拡大・人材育成のコンサルティング業務を提供。