このとき、ヤマダの創業者である山田昇氏は、5年前に社長を退いていましたが社長に復帰し、全取締役を降格させる荒療治で再生に取り組みました。不採算店を57店舗閉鎖し、そのいっぽうでアウトレット店の拡大など店舗の改革を断行し、規模の拡大と安売り一辺倒の経営姿勢から利益重視の体質へと転換を進めたのです。
その結果、平成28年(16年)3月期の当期純利益は303億円にまで回復しました。ヤマダは有価証券報告書において、この業績回復への取り組みを下記のように報告しています。
<このような家電市場の状況を背景に、当社グループは、これまで数年来にわたって取り組んできた、「人事制度改革」「店舗効率向上改革」等の各種構造改革の実行に加え、日本最大級の店舗ネットワークの強みを活かしたお客様本位のサービス向上を目指し、「暮らしのサポートサービス(見守りサービス、New The 安心、長期保証等)」「スマートハウスサービス(株式会社ヤマダ・エスバイエルホーム、株式会社ヤマダ・ウッドハウス)」「リフォームサービス(株式会社ハウステック)」「ヤマダネットモールサービス(ヤマダモール、ヤマダウェブコム)」「環境ビジネス(リユース&アウトレット店、株式会社シー・アイ・シー、インバースネット株式会社、東金属株式会社)」「ファイナンスカードサービス(株式会社ヤマダフィナンシャル、ポイント会員サービス、法人サービス等)」「独自の商品開発サービス(HERB Relax、Every Padシリーズ、デザイン家電シリーズ等)」等、IoT時代をリードする企業として積極的に展開、推進してまいりました。
営業面においては、大規模な店舗閉鎖を断行することで自社競合解消、業態転換や店舗改装による商品構成の見直し、在庫の最適化、人員管理と配置のシステム化による販売効率の最適化・最大化等が図れたことにより店舗効率が大幅に向上しました。「独自のIoTビジネスの展開」と「各種構造改革の推進」「量から質への転換」「モノ(商品)提案からコト(サービス等)提案の強化」等の取り組みにより、各種政策や消費増税の長引く反動減をはじめとした諸要因により家電市場が伸び悩む中、売上総利益率が前年同期間と比較して大幅に改善、各種販売管理費についても大幅な削減が図られ、成果として現れてまいりました>
この記述はやや抽象的ですが、これまでの安易な「安売り」「シェア拡大」「売上成長信仰」が徹底的に見直され、創業者のリーダーシップのもとに、一見困難と思われた採算の大幅改善を実現したのでありました。
イオンとヤマダのちがいは、イオンがスーパー以外(たとえば総合金融)の良質な事業を抱えている一方、ヤマダは家電小売業以外にはさしたる事業がないことです。それだけに、利益縮小の危機感がイオンに比べて大きいものであり、それが蛮勇をふるった事業の再構築につながったのではないでしょうか。
おそらく、イオンにおいても、ヤマダよりも後れをとるでしょうが、事業の再構築が行われるにちがいありません。
筆者は、イオンがGMS以外の優良な事業に頼るという安易な道に走らず、必ずGMSを改善すると固く決意して蛮勇をふるうことができるのであれば、その凋落を食い止めて再浮上することは十分に可能であるとみております。
(文=前川修満/公認会計士・税理士、アスト税理士法人代表)