好調な国内販売に冷や水
さらに、無資格者の完成検査は道路運送車両法に抵触している可能性があり、日産のブランドイメージ悪化は避けられない。日産は「セレナ」やハイブリッドモデルを追加した「ノート」の販売が好調に推移し、長期低迷が続いていた国内販売が回復基調にあった。昨年11月には、「ノート」が車名別販売台数で1位となった。ヒット車不在の日産車が車名別販売で1位を獲得したのは1986年9月の「サニー」以来で、約30年ぶりだった。
その日産がさらに国内販売を後押しする切り札と考えていたのが、航続距離を400kmに伸ばしたEVの新型リーフだ。グローバルでEVが注目されていることもあって、日産ではリーフの拡販に期待していた。
しかし、販売手続きを停止した車両には、10月2日に販売開始した新型リーフも含まれていた。このため、納車が遅れる見通しで、いきなり冷や水を浴びせられた格好だ。それだけではない。10月下旬に東京モーターショーが開催される予定だが、主催者である日本自動車工業会の会長が日産の西川廣人社長兼最高経営責任者(CEO)だ。自動車業界からは、無資格者の完成検査問題が拡大した場合に東京モーターショーが盛り上がらないのではと懸念する声も上がっている。
三菱自との関係性に影響も
さらに、燃費データ不正問題が経営問題となって苦境に陥ったところ、手を差し伸べてきた日産の傘下に入った三菱自の社員は複雑な心境だ。「コンプライアンスの徹底を日産出身者から指導されてきたが、なんだったのか、との思いはある」と語る三菱自社員もいる。
しかも不適切な検査を行って販売を停止したのは、軽自動車を除く日産車21車種。軽自動車は三菱自の有資格者が完成検査して日産にOEM(相手先ブランドによる生産)供給しているため、販売停止の難を逃れた。三菱自の燃費データ不正では、日産の軽自動車販売が停止となったが、今回の不適切な完成検査では日産の軽自動車だけ正常に販売手続きが進むという皮肉な結果となった。コンプライアンスの面で「お手本」となるべき日産の不正は、これまで順調だった両社の関係に微妙な影を落とす可能性もある。
日産では業績への影響や今後の対応について「全容がわかっていないので、なんとも言えない」としており、今後、第三者を含むチームが一連の問題を調査する予定。ただ、リコール費用負担による業績悪化やブランドイメージ悪化による国内販売減など、深刻な事態になる可能性も否定できない。一度失った信頼を取り戻すのは容易でない。
(文=河村靖史/ジャーナリスト)