「企業の買収というのは秘密事項のなかでも、もっとも守秘義務の高いもの。社内でも情報を持つものを限定しているのは普通。なぜなら、情報が漏洩すれば買収話がすぐに破たんしてしまうからです。ところが、東芝は契約締結直前に情報が新聞で“実況放送”されている。考えられないことです」
主要取引銀行幹部は、こうあきれ顔だ。情報漏洩が東芝側のリークだとすれば、東芝は当初からこの提携を阻止しようとしていたということだろうか。
かつて北海道拓殖銀行が経営危機に陥り、北海道銀行との合併の話が浮上したことがあった。当時の大蔵大臣(現財務大臣)が「日本の金融システムを守るため、少なくとも都市銀行の大手20行は1行たりとも潰さない」と語っていたことから、拓銀の役員は高をくくっていたのかもしれない。合併推進委員長だった副頭取は裏で合併に反対し、行内では“合併反対委員長”などと呼ばれていた。
結局、合併は失敗に終わったが、拓銀は破たんの道をたどった。「TOO BIG, TOO FAIL(大き過ぎて潰せない)」といわれ、大企業は無条件で守られるといいう慢心がある。東芝にもそうした一面があったのではないか。
東芝が東芝メモリの売却を発表したのは2月14日。「金融機関からの強い要請があった」(事情通)からだという。東芝メモリが分社化された4月1日以降は、すぐにこの株はメインバンクに担保として差し出されることになった。
「しかし非公開企業の株は担保としては不安。銀行としては早く現金化したかったのではないか」(同)
しかし経済産業省は日本の技術流出に神経をとがらせていた。そこで当初は「オールジャパン」で東芝メモリの買収を進めていこうとしたが、日本企業は思いのほか難色を示した。1990年代は世界トップクラスに君臨した日本の半導体事業。しかし巨額の投資が必要な上に、価格変動の激しいシリコンサイクルを受け、日本企業は次々に撤退。経済産業省主導でNECや日立製作所が切り捨てた半導体事業を統合して設立したエルピーダメモリも業績不振で会社更生法を申請、米国のマイクロン・テクノロジーの傘下となり、最後に残ったのが東芝だった。