韓国SKの強い野心
東芝メモリ売却が発表された当初、買収に積極的に手を挙げる日本企業はなかった。そのようななかで急浮上したのが、ベイン、SKハイニックス、革新機構、政投銀の日米韓コンソーシアムだ。SKハイニックスはかつて東芝の研究データを盗んだ張本人。330億円を支払って和解したが、東芝メモリの技術は喉から手が出るほど欲しいはずだ。当初は出資のみで経営に口を出さないという触れ込みで、このコンソーシアムに参加していた。
これに対して危機感を募らせたのが、東芝とこれまで半導体事業で子会社のサンディスクを通して提携してきたWDだ。5月14日には国際仲裁裁判所に売却中止を申し立てた。その後、6月21日に東芝は日米韓連合を優先交渉先として選定し、契約交渉も佳境に入った8月、SKハイニックスが議決権を主張し、契約交渉は暗礁に乗り上げた。
その後、東芝は鴻海精密工業(ホンハイ)やWDと交渉に入り、8月31日までに合意することを目指していた。訴訟の取り下げなども含めてWDは主に革新機構と調整。ところが東芝の半導体事業関係者の間ではWDに不信感を持つ者も少なくなく、結局交渉は頓挫。さらに革新機構はWDを抜いた日米連合案なども提示したが、東芝は日米韓連合を選んだ。
しかし、韓国ではSK陣営が東芝メモリを買収したかのような報道が行われ、経営権奪取に強い野心があることは明らかだ。今後ぎりぎりのタイミングで最悪のカードを切ってくる可能性は否定できない。仮にこのまま売却が進んだとしても、WDによる訴訟や独禁法の影響で来年3月末までに東芝メモリの売却ができなければ、東芝は2期連続の債務超過となり上場廃止となってしまう。
新たな巨額損失
さらに東芝は、もうひとつ大きな問題を抱えている。東芝は13年に米国とLNG(液化天然ガス)の輸入契約を結んだが、販売先探しが難航。19年9月から20年間にわたって年間220万トンを輸入するが、値崩れしているために最大で1兆円の損失を計上する可能性がある。
つまり東芝メモリを売却しても再び巨額損失が発生するという問題を抱えているのだ。だから東芝メモリを売却するよりも法的整理を行い、東芝メモリを成長エンジンとして活用するほうが、短期間で再上場して復活できる可能性がある。
「しかし、法的整理をすれば系列取引先に影響し、連鎖倒産の引き金になりかねない。東芝クラスの会社による連鎖倒産ともなれば、日本の経済危機の引き金になる恐れもある」(事情通)
しかし、東芝は4つある事業のうちすでに3つを分社化、残りの1つも10月1日に分社化した。4つの事業会社はそれぞれが黒字。「このまま法的整理に持ち込んでも、連鎖倒産の危機は避けられるだけではなく、金融機関に与える影響も、金融危機の引き金を引くほどのものではない」(金融関係者)という。見方によっては、これまでの東芝の優柔不断の態度は、10月1日までの時間稼ぎだったのかもしれない。
果たして東芝はどのような選択肢を選ぶのか。次の一手が注目される。
(文=松崎隆司/経済ジャーナリスト)