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早川書房、異端の出版社の正体…「たまたま」カズオ・イシグロ氏の版権独占の凄い経営

構成=長井雄一朗/ライター

イシグロ文学の魅力

早川書房、異端の出版社の正体…「たまたま」カズオ・イシグロ氏の版権独占の凄い経営の画像2早川書房編集本部本部長兼企画室室長・山口晶氏

――続いて、イシグロ文学の魅力についてはいかがですか。

山口 ノーベル文学賞の中には、難解なテーマを難解な文章で描く方もいます。しかし、それでは読者はなかなかついていくことができません。イシグロ文学の魅力は、描いているテーマは普遍的で、かつ奥深く、みなさんに共通したことである一方、物語性を非常に大切にされています。昨年のノーベル文学賞はボブ・ディラン氏でしたが、今年のイシグロ氏の受賞により、あらためて文学における「物語性」の復権が得られたと考えています。しかも、イシグロ氏の作品は、読めば読むほど意味合いが深くなり、読者の方々にも共感が得られるのでしょう。

 まずは、『日の名残り』や『わたしを離さないで』から読んでいただければ、イシグロ文学が理解いただけると思います。ノーベル文学賞作品でありつつも、ハードルを低くした功績は大きいと考えます。

――『わたしを離さないで』を読んでいる途中でも、この主人公が時おりヒントを交えつつも境遇をモノローグしていく姿に惹かれました。

山口 各章の終わり方がうまく興味を引き立て、次々と読みたくなります。しかも終わらせ方が下品な感じではないのです。自然体で先を知りたくなる。大げさではなく抑制を利かせつつ終わらせます。文章は美しくもありつつ、構造的でしっかりと組み立てられています。

――主人公たちの生き方は悲しくもはかなくもありました。

山口 これはネタバレになってしまいますが、ヘールシャムでの方々の人生は限られています。これは、我々にも共通したメッセージです。人生はいつか終わりが来ます。人生は短いですが、どのように生きていくかを考えていくことがメインテーマです。この子たちの境遇は、我々にもあてはまります。

――「あなたたちは学んでいるようでなにも学んでいない」との趣旨を学校の先生が生徒に話すシーンは、我々に向けたメッセージであるとも受け止めました。

山口 この子たちの境遇やありようは、ショックであり残酷であるという方もいます。しかし、裏に隠されたメッセージを汲み取っていただければありがたいです。この子たちはそれぞれ、叶うことのない希望も持っています。

 それは我々も同じです。多くの人が、叶うことのない希望を持ちつつ人生を生きています。それはお金持ちでも貧しい人でも同様です。限られた人生を大切にしてほしいですし、普遍的な人生のあり方にも思いを馳せてほしいのです。イシグロ文学を通じて、ぜひ人生について真剣に考える時をもってほしいというのが願いです。

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