厚労省の発表によれば、今年8月の有効求人倍率は1.52倍を記録したという。これは、43年ぶりの高水準だった前月と同じ数値で、求職者1人につき1.5件を超える求人がある“売り手市場”であることを表している。
バブル期で最も高かった1990年7月の1.46倍を大きく上回ったといわれているなか、注目したいのがその中身だ。これまで「増えているのは非正規ばかり」と批判されていたのが、今年6月以降、「正社員」の倍率が、ついに1倍を突破して1.01倍になった。これは、2004年の調査開始以降、初めてのことだという。
10月22日に行われた衆議院議員総選挙においても、自民党がアベノミクスの実績のひとつとして、この数字を挙げて「正社員を希望する人は、もれなく正社員になれる!」と、さかんにアピールしていたので覚えている方も多いだろう。
では、雇用情勢は、本当にそこまで絶好調といえるのだろうか。調べてみると、意外なカラクリがみえてきた。
職種ごとに求人倍率の差が顕著に
上の表は、有効求人倍率を職種別に高い順に並べてみたものだ。
もっとも求人倍率が高いのは「建設・躯体工事の職業」で、10.00倍。「保安の職業」(警備員等)7.30倍、「医師、薬剤師等」6.27倍、「建築・土木・測量技術者」5.68倍と、異様に高い数字が続く。いずれも、深刻な人手不足に陥っている職種だ。
これらの職業が全体の数字を押し上げている一方、もっとも志望者の多い事務職(「事務的職業」分野の「一般事務の職業」)に目を転じてみてみると、0.30倍にすぎない。
つまり、事務職に関しては求職者10人に対して3件の求人しかない“椅子取りゲーム”状態なのだ。建設業などとは対照的に、事務職は絶好調どころか、いまだに企業側が採用に際して自由に選別できる“買い手市場”となっていることがわかる。
「事務的職業」のなかでも、水道メーター検針、NHK放送受信料集金人を含む「外勤事務」が5.05倍と、平均値を大きく上回っているのが印象的だ。
意外に高いのが「管理的職業」で、全体平均とほぼ同水準の1.49倍だ。中高年でも、営業部長や経理部長を経験した人材は、どこでもひっぱりダコなのだろうと思いきや、個別の求人を詳しく見てみると、介護・医療関係施設における事務長の求人が大量に出されている一方、一般企業の管理職の求人は極端に少ない。
「介護サービスの職業」は、現場レベルも2.96倍と、スタッフの人手不足は深刻。また、一般的な「営業の職業」こそ、1.66倍程度で収まっているものの、不動産仲介等の店舗での営業が多い「販売類似の職業」になると、3.02倍までハネ上がる。
このように、賃金水準が高くなかったり、休みが取りにくかったり、体力的・精神的にキツいといわれる職種は、求人倍率が高くなる傾向が表れている。