1万円札の出品者は5万円を5万9500円で売ったのだから、メルカリに手数料を支払っても利ザヤを稼げた。購入者はヤミ金から借りている多重債務者とみられ、現金を手にしてヤミ金の返済に充てた可能性が高い。結局は、借金の総額がどんどん膨らんでいくのだが、藁をもつかむ気持ちで現金をクレジットカードで買うのだ。まともな商取引とはいえない。
ヤミ金が多重債務者に、審査の緩い消費者金融で金を借りさせて、貸した金を回収するのは古典的な手口だが、メルカリがそのための新しい舞台を提供したかたちだ。
その後、1万円札を折ってつくったオブジェ、高額チャージ済みのICカードなどが次々に出品された。9月にはスーパーで万引きした商品を出品した大阪府の男2人が逮捕された。また、関東の高校の野球部で大量のボールが盗まれ、その一部がメルカリに出品されたといわれている。
メルカリは、フリーマーケットならぬ「闇市場」の様相を呈している。こういった悪いイメージを払拭しないかぎり、株式上場への道は厳しい。
そこで、やっと規制に乗り出した。10月12日、違法・規約違反行為の抑止力強化の一環として、初回出品時の住所・氏名・生年月日の個人情報登録を年内に義務付けると発表した。だが、メルカリは個人間の売買を自由にできるのが特徴で、銀行口座やクレジットカードを持たない若者を中心に爆発的に普及してきた。そのため、規制強化によって利用者のメルカリ離れを招くのは避けられないだろう。
メルカリの年内上場は厳しくなった。11月6日付日経産業新聞は、新設コラム「コンフィデンシャル」のなかで、「金融庁に加え警察庁もメルカリの上場に難色を示している」と報じた。金融庁が指摘しているのは、表面上の不正ではない。もっと根本的な資金決済法の問題という。
メルカリには、物品を売買して得た売上金を預けておける仕組みがある。このお金を使って、さらに売買を繰り返す人も多い。だが、この仕組みが資金決済法の定める「資金移動業者」にあてはまると金融庁が指摘している。
日経産業新聞は、「警察庁の意向を配慮した金融庁が最近になって年内上場の見送りを東証に要請した」という関係者の話を伝えている。
年内上場が厳しくなり、メルカリは上場の目標を18年3月31日に再設定したという。だが、根本的な問題が解決されない以上、日本初の「ユニコーン」が離陸することは難しそうだ。
(文=編集部)
●続報
メルカリで現金を額面以上で販売する手口で、法定限度額を超える利息を受け取ったとして、京都、秋田、千葉の各府県警は11月16日、出資法違反(超高金利、脱法行為)容疑で男女4人を逮捕した。フリーマーケットアプリを悪用した違法融資を摘発するのは全国で初めてだ。メルカリでは額面以上で現金の出品が相次ぎ、今年4月、利用規約に違反するとして出品を禁止していた。金融庁も実態を調査する方針を明らかにしている。
千葉県警が逮捕した事例では、2016年8月~17年7月、メルカリを通じて計10回にわたり現金25万円を計31万円で販売し、差額を利息として得た疑いがある。差額の6万円は法定金利の4.4~6.4倍にあたる。千葉県警は現金の売買が実際には金の貸し借りだったと判断した。現金をやり取りする際、Tシャツなどの出品を装っていたこともあったといい、千葉県警は容疑者に違法性の認識があったとみている。メルカリの出品履歴などから、14年5月以降、計30人に100万円を120万円超で販売、違法な利息を得ていた疑いがあるという。
現金取引の隠語は「銀貨」。コインやネコの写真などを1万円~16万円で出品していたケースもあるという。メルカリには複数の決済方法があるが、現金の購入者はクレジットカード決済や、携帯電話の通信料金と合算して払うキャリア決済を選んでいた。現金の出品を禁止しても、Tシャツやコイン、あるいはネコの写真が使われていれば、ガードし切れないのではないか、との指摘がある。