M&A総額が急激に増大したのは、大型のM&Aが頻発するようになったからである。100億ドルを超える買収例をあげると、15年では以下のM&Aがあった。
・オランダNXPが、米フリースケールセミコンダクターを118億ドルで買収
・米インテルが、米アルテラを167億ドルで買収
・中国の紫光集団が、米マイクロン・テクノロジーを230億ドルで買収(失敗)
・米デルが、米EMCを670億ドルで買収
・米ウエスタンデジタルが、米サンディスクを190億ドルで買収
・米ラムリサーチが、米KLA-Tencorを106億ドルで買収(失敗)
・中国の紫光集団が、台湾TSMCの25%株式を300億ドルで取得(失敗)
・米グローバルファウンドリーが200億ドルで売却候補となり、サムスン電子、TSMC、クアルコムが名乗りを上げる(その後どうなったか不明)
16年になっても、100億ドルを超える大型M&Aが続いた。
・米アバゴが、米ブロードコムを370億ドルで買収
・ソフトバンクが、英アームを3.3兆円で買収
・米アナログ・デバイセズが、米リニアテクノロジーを148億ドルで買収
・米クアルコムが、オランダNXPを470億ドルで買収すると発表
そして、今年17年、上半期のM&A総額はわずか14.8億ドルで、大規模なM&Aの嵐は止んだかに思えた。ところが、東芝メモリが2.4兆円(211.2億ドル)で米ベインキャピタル率いる「日米韓連合」に売却されることになった。そして、ブロードコムが1300億ドルでクアルコムに買収提案を持ちかけた。これらが実現すれば、17年のM&A総額は1526億ドルと過去最高額を記録することになる。
なぜ大型M&Aが頻発するか?
かつてのM&Aでは、シナジー効果「1+1=3」を期待した。ところが、昨今のM&Aは「1+1=2」に変化してきている。ビジネスにおいて、「スピード」が最も重要な要因になったからである。
現代のM&Aの狙いは「規模を拡大する」ことと、「手っ取り早く技術を確保する」ことにある。というのは、あらゆる分野で、「1強+その他」という構造が出現している。そして、その分野の1強だけが利益を総取りする構図が構成されている。
ビジネスチャンスが到来したとき、技術をゼロから開発する時間はない。そのため、そのビジネスにおいて「1強」になるためには、技術を持っている企業を買収するか、合併・提携することが唯一の解となったのである。
逆に言えば、スピードが極めて重要になった現代ビジネスにおいては、何もしないことは、「その他」になるリスクを負うということである。半導体とIT産業では、PCからスマホを経由して、IoT、AI、ビッグデータなどが、テクノロジードライバーになってきた。そのパラダイムシフトにともなって、核となる技術、ビジネス構造、産業構造などが大きく変化している。
この変化に対応し「1強」になるために、大型M&Aが頻発しているといえるだろう。そして、変化に対応できない企業は早晩、淘汰されることになる。一つの技術、部品、製品に着目すれば、最も早くデファクト・スタンダードを制することができるかどうかが、「1強」と「その他」を分かつ分岐点となる。そのため、今後も大型M&Aが頻発する時代が続くといえるだろう。
(文=湯之上隆/微細加工研究所所長)