アマゾンに対抗するために米国の小売企業は、販売価格の引き下げや特典の付与などを行っている。同時に、アマゾンはネットワーク技術を用いて他社の販売価格を調査している。小売業界が安値攻勢に出れば出るほど、アマゾンは販売価格を引き下げ、小売業界全体が価格競争に巻き込まれていく恐れがある。これは日用品や玩具に限らず、家電などの耐久財にも浸透していく可能性がある。これまでのような状況が続くのであれば、小売業界全体がECの波にのみこまれていくだろう。
十分な成果を上げられなかった投資ファンド
トイザラスの再建を考える上では、投資ファンド(ベインやコールバーグ・クラビス・ロバーツなどのプライベート・エクイティ・ファンド)が何を果たしたかも見逃せない。2005年、投資ファンド連合は、トイザラスの資産を担保に資金を借り入れて同社を買収した(レバレッジド・バイアウト、LBO)。投資ファンドはリストラを進めながら中国など消費の拡大が期待される地域への進出を強化して、収益基盤を強化することを目指した。
ファンドによる買収後、世界の消費財市場ではウォルマートなどの大型ショッピングセンター運営企業が事業を拡大し、アマゾンも成長した。その間、トイザラスは玩具を専門に扱う小売業者としてのビジネスモデルを堅持した。より早い段階で、他社との経営統合を模索したり、アマゾンとの関係強化を目指してもよかったはずだ。
本来であれば、投資ファンドには成長の触媒となる要素を見分け、それを投資先の企業に持ち込むことが求められる。それゆえ、プライベート・エクイティ・ファンドのリスクは相対的に高く、流動性も低い(現金化するためにかかるコストが高いということ)。トイザラスが再建を断念したことは、そうした本来求められる役割が果たされなかったことを示唆する。事業環境と同様、あるいはそれ以上に投資ファンドが何をしようとしたか、なぜそれが効果を発揮しなかったかは注目されてよいはずだ。
ハイテク企業の成長性が注目を集めてきたこととは対照的に、世界全体で投資ファンドの生み出してきたリターンは低下基調にある。数年単位でみるとリターンの上下動はあるが、趨勢は右肩下がりだ。本来、相応のリスクを取って事業の再生などを実現すべき役割が果たせていないことは、企業成長のメカニズムそのものが投資ファンドの重視してきた発想から変化しつつあることの表れのように見える。