小売業界が迎える試練の時代
その変化とは、特定のビジネスモデルを念頭に置いた経営戦略がワークしづらくなっていることといえる。トイザラスの創業者である故チャールズ・ラザラス氏は、顧客の願望が何か、それをどう叶えるかを重視した。トイザラスにとって、玩具はそれを実現する手段だった。
経営が行き詰まるとともに、同社は目先の利益の確保を重視せざるを得なくなった。顧客とのかかわりから得られた知見を、別の分野に応用する余裕はなくなっていったと考えられる。アマゾンの成長とともに、小売業界ではこうしたケースが増える可能性がある。
トイザラスの事業清算からいえることは、特定のモノを販売して成長することが難しくなったということだ。小売業のかなりの部分がネットによって代替され、消費者の利便性が向上している。価格面で勝負をすればするほど、低価格競争の激化と収益性の悪化が連鎖反応のように進む恐れもある。
その展開に巻き込まれることは避けなければならない。中国のアリババや、アマゾンが手がける無人店舗のように、店舗の運営を省人化することでコストは削減できる。問題は、浮き出た労働力を活用して新しい需要確保につなげることができるか否かだ。それができないと、雇用機会が失われて経済が縮小する恐れも出てくるだろう。
小売業界に求められるのは、ネットワーク技術を活用して既存のビジネス運営の費用を減らしながら、人にしかできないビジネスを創出することだ。確かに、ネットワーク技術の応用は、私たちの生活環境の向上につながる。同時に、ウーバーの自動運転車の事故にみられるように、生活にかかわるどこまでを機械に任せるかは判断が難しい。
そうした問題を議論するよりも、介護や医療、子育てなどの分野に労働力をシフトさせていったほうが、社会全体での満足度を高めることはできるだろう。接客など小売業のノウハウを生かすことのできる範囲は多いはずだ。
(文=真壁昭夫/法政大学大学院教授)