今回のアメフト問題は大学スポーツ、つまり教育行政の問題でもあるのに、「こうした事態を引き起こした大学教育を、どう改善しなければいけないのか」ということが国会では議論もされない。当事者である日大アメフト部の前監督・コーチ、総責任者である田中英壽理事長を証人喚問して、事実を明らかにするべきではないだろうか。
顔を出さない謝罪が一般的になった日本
今回の記者会見で日大選手側の弁護士は、「顔を出さない謝罪はない」という選手および選手のご両親の見解を示している。非常に誠実で真っ当な考えだが、今の日本はその真逆が常識となりつつある。食品業界だけではないが、今は異物混入や偽装、食中毒を起こしても、社長どころか広報部さえも記者会見を開くことはなく、ほとんどが広報部からの文書だけで済まされる。
これは、食品偽装事件で苦い経験があるからだ。前述した雪印乳業の食中毒事件の際、当時の社長が記者会見時、会見の延長を求められ、報道陣に向かって「私は寝ていない」と発言したことで、雪印ブランドの信用が失墜してしまった。その2年後の02年に、子会社の雪印食品がBSE補助金詐欺事件を起こしてしまったため、雪印食品は消滅した。
その後も、食材使い回し事件の船場吉兆の「ささやき女将」会見、メニュー表示偽装の阪急阪神ホテルズの「偽装ではなく誤表示」会見など、記者会見で失敗した例が続いた。そのため「トップが記者会見すると危ない」という風潮が、事業者側に根付いてしまっている。
しかし、これは日本だけのことだ。米国では、まさに「責任者出て来い」は当たり前で、不祥事があった時は、当事者ではなく企業の責任者が矢面に立たなければならない。自動車の欠陥問題でも、社長自ら矢面に立ったトヨタ自動車と、いつまでたっても顔を出さなかったタカタでは、その後の会社の行く末に差が出ている。そして日大の田中理事長は今回の事件が起こって以降、表に出てこず、会見も開いていない。
今回の悪質タックル事件は、もう個人の問題ではなく「大学教育」の問題になっている。そもそも、一スポーツ部の監督だった内田氏が大学の常務理事(人事部長)として人事権を握っているのが当然かのごとく振る舞っている大学に、指導すらできない国は健全なのだろうか。
日大だけではないが、一部の権力者に牛耳られている大学で、本当の教育ができるのだろうか。国として「大学教育はこうあるべきだ」という指針をしっかり示すべきである。
(文=垣田達哉/消費者問題研究所代表)