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メルカリ上場、抱える「法令遵守」という経営リスク…多額広告宣伝費で財務悪化懸念も

文=真壁昭夫/法政大学大学院教授
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 成長を目指すためには、売上高の増加が欠かせない。コストの増加以上に売上高が増えればよい。そのためにメルカリは海外市場の開拓を重視している。国内に比べると、米国などの市場規模は大きく、需要取り込みの余地も大きいと考えられる。米英市場でのマーケティング強化はその考えの表れだ。

 同社の有価証券報告書を見ると、第5期(2016年7月1日~2017年6月30日)、広告宣伝費の増加によって株主に帰属する当期純損失は約42億円だった。前期の純損失額が約3.5億円だったことを考えると、広告関連のコスト増加のインパクトは大きい。

 すでにメルカリのアプリのダウンロード数は1億件に達した。うち30%程度が米国だ。2016年10月からメルカリは米国で手数料の徴収を開始しているが、宣伝費の大きさを加味すると、海外事業は最終利益に貢献していない。海外での広告宣伝費の増加が収益の増加に寄与するか否かは、メルカリの成長を考える重要なポイントである。

経営陣の展開能力への一抹の不安

 気になる点は、メルカリ経営陣に、成長への“焦り”が感じられることだ。昨年夏場にメルカリが上場を申請したとき、市場参加者の間ではメルカリが直接、東証第1部に上場するとの見方があった。同社の創業者である山田進太郎会長は、もともと、株式市場への上場で評価を受け社会の公器としての役割を果たすことを重視してきた。それを考えると、多くの投資家の注目を集めやすい東証1部上場の意義は大きかったはずだ。

 それに比べ、マザーズへの上場は、やや異なった印象を与える。社会的責任を果たす企業としての存在感を示すというよりも、むしろ目先の資金確保に追われたとも映る。背景には、今後の成長への焦りがあるのかもしれない。

 メルカリは、国内市場でC2C市場を開拓し急成長を遂げた。今後は、フリーマーケットに加え、ネットワークテクノロジーを駆使して、より利便性の高いサービス=需要を生み出すことが求められる。その一例にフィンテック事業の強化などが考えられる。ただ、今のところ、事業展開の重要性から見てフリマアプリに肩を並べる事業は見当たらない。その分、同社の経営戦略にとって海外の需要取り込みが重要になる。実際、有価証券報告書には相当規模の広告宣伝費が投じられる可能性が明記された。そのための資金を調達するために、メルカリはマザーズ上場を重視したと考えられる。

 成長を追求するアニマルスピリッツは、企業の成長に必要不可欠の要素だ。その意味では、成長資金の確保に上場は重要だ。問題は、海外市場の開拓を急ぐあまり、財務内容の悪化につながるようなリスクの高い意思決定が行われることだ。そこに不安がある。

 現実的に考えると、当面、メルカリの成長は、国内事業に依存する部分が大きい。それをもとにして、成長への資金を生み出す戦略が示されれば、投資家はメルカリが持続性ある成長を目指していると考えることができる。今後は、SNSや金融関連の専門家の採用など、メルカリがこれまでに蓄積してきた経営資源を活用し、新しい事業育成への戦略を提示することが求められる。それができれば、今回の上場を契機に、メルカリ発展への期待が一段と高まるだろう。
(文=真壁昭夫/法政大学大学院教授)

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